*under160 なんかいいなって思うときがたまにある。 ピーちゃんがセンセーに抱きついてるとこを見たときやシュンさんとセンセーが並んで歩いてたりするとこを見たとき。 思考が声になっていたのか、何かを察したピーちゃんが「ティンカーちゃんって抱き心地が良くってね」なんて言って笑ったことがあったけど、ピーちゃんの長い腕に包まれ、顔を真っ赤にしながらジタバタと暴れるセンセーは、すごく柔らかそうで、ぼくもそんな風にできたらなって思った。 誰かと並んで歩いてるときもそう。 別にシュンさんだけに思うんじゃないんだけど、一緒にいることが多いから、つい目に入ってしまう。 少し前までは、登りやすい頭だなーとか、実際に登ってみても、いい眺めだなーくらいにしか思ってなかったのに、最近はちょっとだけ変わった。 あれくらい身長があると、センセーと話してたりしても、なんか様になるというか。……まぁ、本人たちにそんな気はないんだろうけど。 この感情は嫉妬と言うよりは、ただ純粋な羨望。 センセーを胸の中におさめてみたいとか、センセーに上目遣いで見詰められたいとか、160cmに満たないぼくにはちょっとだけ難しいからこそ、簡単にできてしまう周りを少し羨ましく思う。 センセーのことはスキだけど、たぶんまだコレは恋愛感情とかではなくて。 少しだけ、ぼくを特別視してもらいたいとは思うけど、ClassZの多智花八雲って見てくれるだけでも今のぼくには十分で。 真っ黒い感情よりも先にそんな思いが生まれてしまう自分に少し驚きながらも、結構簡単に受け入れてしまっている。 それに、身長にコンプレックスを持ってる訳でもない。 だって、これくらいの背丈の方が可愛いし? 運動やダンスをするときも、身軽だから跳んだり跳ねたりできてすっごく楽しい! やっぱり、ぼくってうさぎさんみたいだよねぇ〜、なんて。 そうやって自分に言い聞かせてみたりもするけれど、羨ましいなって思ってしまうことは止められない。 「こらァァ、アホ共っ!! 貴様ら、また課題をやってこなかったらしいな!!?」 「やっほ〜。今日も無駄に元気そうだね、アホアホ集団」 アホサイユの中に、突然乱入してきたホジョ兄弟の声が響く。主にお兄ちゃんの方だけど。 「なんでてめぇらがここに入ってくんだ!? 方丈ツインズ!!」 「ふん、この鍵が目に入らないのか?」 「あぁん、それは――」 「アホサイユの鍵だよ〜」 「おい、そりゃあ俺ヨメ会特別名誉講師のアイツに渡した特製の鍵じゃねぇーか! どうして、てめぇらが持ってるんでぇ!?」 「それは真奈美せんせいから奪…貰ったからだよ〜」 「こ、こら! 慧君に那智君っ!」 ホジョおとが漏らした不穏な言葉を裏付けるように、双子を追ってきたセンセーが息を切らしてアホサイユに入ってくる。 「せ、正義感が強いのは分かるけど、もうちょっと落ち着いて。ね? 勿論、天十郎君も」 睨み合っているてんてんたちの間に入って、センセーは必死に訴えるけれど、その声は届くことはなく。 「ってか、その鍵はてめぇらに渡したモンじゃねぇ! さっさと返しやがれ!!」 「なっ、貴様!」 叫ぶと同時に、てんてんはホジョあにの手からアホサイユの鍵を奪い取った。しかし、それも束の間。 「おいおい、勝手に取るなよ、成っちょ」 「くぁぁ…何を言う。先にこいつから取ったのは、お前らだろう?」 ホジョおとが掠め取ったはず鍵は、いつの間にかふーみんの手の中にあって。 「そ、そんなことよりも皆揃ってるんだし、補習を始めましょ?」 「何を言っている!? こいつらの性根を叩き直す方が先だ!!」 「ちょちょちょっと、レディに向かってそう怒鳴るもんじゃないよ。方丈の王様?」 ふーみんから強引に奪い、またホジョあにの手に戻った鍵を今度はピーちゃんが華麗に抜き取る。それを良しとしないホジョおとが、ピーちゃんの腕を掴んで…あとはほぼ同じことの繰り返し。 ヒートアップしてきた五人が、身体を寄せて、鍵の奪い合いを始めると、 「うわっ!」 長身の高校生五人に挟まれたセンセーは、小さな悲鳴とともにその姿をも埋もれさせた。 腕をいっぱいに上げて、鍵にばかり意識を集中させているてんてんたちは、その下でセンセーがどんな状態になっているかも知りもしないで、尚も奪い合いを続けている。 それまでは、ソファに腰掛けて静観していたぼくだけど、揉み合っている五人の中にセンセーの栗色の髪とブルーのスーツを見つけて、ゆっくりと足を進めた。 「こっちだよ〜、センセー」 手を引いて、揉みくちゃにされたセンセーを救い出す。 相変わらず言い合いを続けている五人は、そんなこともやっぱり気付く様子はなく。ぼくやセンセーの届かない高さで、未だに鍵の争奪戦を繰り広げている。 「ううっ…潰されちゃうかと思った…」 咳き込むセンセーの背中を優しく擦って、もう片方の手でボサボサになってしまった髪を手櫛で梳きながら、ぼくは声を掛けた。 「抜け出せて良かったねぇ、センセー」 「うん、八雲君のお陰だよ。本当にありがとう」 まだ苦しそうなのに、それでも微笑みを向けてくれるセンセーに、ぼくの胸は一瞬で熱を帯びる。 「ふふ、どういたしましてー」 160cmに満たない、この背丈だからこそ気付くことやできることがあるかもしれない、と。 笑顔で言葉を返しながら、ぼくは少しだけ自分を誇らしく思った。 ずっと書きたかった身長ネタです。 二学期の初め頃の話のつもりなんですが、慧が八雲を恐れていないので、ルートは気にしない方向でお願いします(笑) 2009.7.10.up |