*ハッピー・バレンタイン! 2月14日。 聖帝学園は、いつも以上の賑わいを見せていた。 そんな中、A4のリーダー成宮天十郎が校舎中に響き渡るような大声で言い放つ。 「やいやいやい、テメェら全員聞きやがれ! 今から『第18回 チョコを一番多く貰った幸せモンは誰だ!?選手権』を始めるッ!!」 ドドーン! ババーン! 背後で花火が盛大に上がる中、天十郎は言葉を続けた。 「本命、義理、内容はとわねぇ! どれだけ多くのチョコをゲットできたかを競いあってもらうぜぃ〜!!」 「くぁ〜…やめとけ、天。そんなの既に結果は見えている」 「あぁん!? なんだと、千!!」 「あれを見ろ」 千聖が指差す方向には、大勢の女子生徒に囲まれたアラタと八雲の姿があった。 「わぁーい、こんなにいっぱいのチョコをありがとう〜。ぼく、うれしいぴょん!」 「ちょちょちょ〜マジで感謝だよ、オレの可愛いお花ちゃんたち。 MZA? みんな全員愛してるっ(ばちーん☆)」 八雲の屈託の無い笑顔に周囲の女子がもれなく頬を染め、アラタがウィンクすると同時にほとんどの女子生徒が失神した。 「どうせ、嶺か多智花が勝つんだろう。義理チョコの一つも貰えていないお前に入る隙間などない」 「はぁん、千! オメェは戦う前から弱腰か!? 勝負はこれからだろーが!! ちなみに、俺様に最高のチョコを寄越した女は、即日天十郎様の嫁になれるっつー豪華特典付きよぉ! つー訳で、最高の嫁はどこでぇ〜!!」 「ふぁぁ…どうでもいい上に、めんどくさい」 「さっきの爆発音は何だ!!?」 そんなやり取りをする二人の前に、眉間に皺を寄せた慧が声を荒らげながら現れた。その傍らには、兄とは反対に穏やか笑みを浮かべた那智もいる。 「成宮! 貴様、また学内で問題を起こす気だな!? 今日こそは絶対逃がさんぞ!!」 「やっほ〜元気?」 「おうおう、方丈兄弟。テメェらも『第18回 チョコを一番多く貰った幸せモンは誰だ!?選手権』に参加する気かぁ?」 「『チョークを一番多く食らった痴れ者は誰だ』だと? 何訳の分からんことを言っている!? 学内の風紀を乱す行為は、この僕が許さない! ただ、それだけだ!!」 「あ、ちなみに生徒会室には、おれら宛てのチョコが結構来てるよ〜」 「けっ、こんな石頭やのほほん野郎にやるくらいなら、俺様に最高のチョコを寄越せってんだ!」 「僕はチョコなど受け取っていない! 校則違反を犯し、学内に菓子などという不要なものを持ってきている生徒たちが、今日は珍しく自主的に名乗り出ているから、生徒会長として全て没収しているだけだ!」 「あぁ? 何言ってやがるんだ、オメェ」 「くぁ〜…どうでもいいが、女子に少し同情する」 「慧は本気だよ〜。おれは、有難くいただいてるけどね」 「なんでぇ石頭、オメェも相当阿呆だな!」 「なっ、僕をおまえたちと一緒にする気か!?」 「でも、慧はバレンタインを知らない訳じゃないんだよ? 朝から、ClassZと職員室の往復を繰り返してるし」 「那智! おまえは少し黙れ!」 「まぁ、全然成果は得られてないんだけどね〜」 「ふん、本命には逃げられているということか」 「へへん、ざまーみやがれってんだ!」 「う、うるさいっ!!」 顔を真っ赤にして怒鳴る慧を、その原因の大半を作った那智が宥める。 「仕方ねぇ。石頭がぎゃーぎゃーうるせぇし、今年は最後に北森のヤツから貰ったら、優勝も最高の嫁ゲットも諦めてやるか!」 「は? 成宮、いきなり何を言い出す!?」 「まぁ、まだ貰えると決まった訳ではないがな」 「ふん、千もつまんねぇこと言うんじゃねぇ! アイツは律儀な女だからな! ぜってぇ、俺様のために用意してきたはずだぜ! そうと決めたら、早速行動でぇ! どけどけどけ〜天十郎様のお通りだぁ〜〜〜!!!」 「めんどくさいが、俺も行く」 「あ、おれも〜」 「ま、待て貴様ら! というか那智まで便乗するな!!」 (主に天十郎と慧が)言い合いを続けながらも、四人は職員室の前まで辿り着いた。 そこには、先ほどまで多くの女子生徒に囲まれていたアラタと八雲の姿があった。 「あん? オメェら、揃って何してるんでぇ」 「うん? オレは可愛いお花ちゃん全員からチョコを貰う主義だからね。ティンカーちゃんからもぜひいただこうと思ってさ」 「そうそう! ぼくもずっと楽しみにしてたんだぁ〜」 そう答える二人に、天十郎はニカっと歯を見せて笑った。 「そうか、じゃあ俺たちと一緒だな!」 「僕を数に入れるな! 僕は断じて違うぞ!」 「はいはい、慧は素直になろうね〜」 「くぁ〜…どうでもいいが、お前たちはなんで中に入らずこんなところでつっ立ているんだ?」 「ASK? あれ〜、それを聞いちゃう系?」 「だってさ〜、中見てみてよー」 そう言って、二人は職員室の中を指差す。 「真奈美先生〜、作ったチョコの余りだけど、すごく上手にできたからお裾分けしてあげる!」 「せーんせ、今年は逆チョコってのが流行ってるんだってさ。だから、これ受け取ってよ」 「北森先生、これ、俺らのクラス全員からのチョコです。いつもありがとうございます」 「あ、あの私も…」 「僕も!」 「わ〜、みんな本当にありがとう! こんなにたくさん貰えるなんて嬉しいなぁ。ぜひ先生方といただくね」 そこには、男女問わず大勢の生徒に囲まれた真奈美の姿があった。 「新任! 今年も真壁翼等身大チョコを作ったからな、有難く受け取れ。そして、最高級の味をその貧相な舌に刻み込むがいい!」 「北森先生、昨日息子たちと一緒に作ってね。よかったら食べて貰えないかな?」 「くま〜くまくまぁ〜ふぁに〜」 それぞれの主張が大きすぎて全員分の声を拾うことはできなかったが、人だかりからは教師陣やクマの声まで聴こえてきた。 「なんでぇ、あの人の山は……」 「どうやら、あの連中は貰う気満々のオレたちとは違って、ティンカーちゃんにチョコを渡すためにやって来たみたいでさ」 「だからなんか入るに入れないんだよねぇ〜、しゅん……」 「くぁぁ…それにしても凄い人の数だな。向こうの入り口で入場制限しているぞ」 「あ、ホントだ。生徒会の子が仕切ってるね〜」 「なるほど、『逆チョコ』、か……」 「ん〜、慧なんか言った?」 「い、いや! なんでもない! 僕は何も言ってないぞ!」 それぞれが好き勝手に口を開いていると、天十郎が「あ〜〜!!」と突然大声を上げた。 「なんてこった! ってぇことは、『第18回 チョコを一番多く貰った幸せモンは誰だ!?選手権』の優勝者はアイツになるのか!?」 「……まぁ、そうなるだろうな」 「というか、おまえたちは、まだチョークがどうだの下らんことを考えていたのかっ!? それに彼女がチョークなど食らうはずが――」 「まあまあ、慧は少し落ち着いて。それにしても、せんせいすごいな〜モテモテだ」 「SOT? さすがオレのティンカーちゃん。モテキングのアラタ様も野郎やクマからは貰ってないからねぇ」 「ぼくも先生たちからなんて貰ったことないよー」 「アイツ、やるじゃねぇーか! これはパレードでもして祝ってやんねーとな!!」 天十郎が高らかに笑った。 それぞれ驚きを隠せない様子だったが、皆その口には笑みを浮かべている。 「ふん、くだらない。僕は帰るからな!」 「あ、慧ってば抜け駆け? おれもチョコ買いに行く〜!」 「なっ、誰が、そんなものを買うなどと言った!?」 「顔にはーっきり書いてあるよ〜」 慧と那智はそんなことを言い合いながら、廊下を早足に駆けていった。 「方丈兄弟なんかに負けてらんねぇよな! よぉし、俺たちもアイツを盛大に祝うぞ!! オメェら祭りの準備だ〜〜!!!」 「ああ、分かった」 「オーケイ。オレ、マジマジドマジで本気出しちゃうよ?」 「うん、ぼくも頑張るー!」 天十郎の掛け声とともに、A4のメンバーはそれぞれ目的のために散って行った。 ――それから、数分後。 「……あれ? さっき天十郎君たちの声がしたと思ったんだけど」 暫しの自由を得た真奈美が廊下を覗いたとき、そこには彼らの姿はなかった。 「残念、少しでも早く渡したかったのに。まぁ、あとで探しに行けばいっか」 そう呟いて手元に目をやる。真奈美の手には、可愛らしく包装された6つの小さな箱があった。 管理人、初のバレンタインSSです。 北森先生の料理の腕が分からなかったので、こんな話にしてみました。いかがでしょうか。 個人的には、色々なキャラを登場させることができて楽しかったー! 特に慧をダメな子にしすぎた感がありますが、まぁそれは愛ゆえに、です(たぶん) 尚、呼称などはプレイ後さり気なく修正します(笑) 読んでくださって、ありがとうございました。 2009.2.14.up |