*counterattack!


 慧と那智の新居に招待された真奈美は、未だに混乱している頭を必死に整理させていた。
「真奈美せんせい〜、な〜に変な顔して唸ってるのさ?」
「こら、那智! お前はどうして、そういう言い方しかできない!?」
「だってさ〜、見てみなよ、慧。変すぎて、逆にちょっと可愛いだろ?」
「…む、確かに」
「ちょ、ちょっと、二人して顔を覗き込まないでよ!」
「うっ、すまない」
「ごめんね〜、せんせい」
 端整な二つの顔に左右から見詰められ、耳まで赤くさせて俯く真奈美を見て、片割れの那智が愉快そうに笑う。
「…………あのさ、那智君」
「ん、なに〜?」
「さっき言ってた口止めって……」
「そ、これのこと〜」
「この部屋に引っ越すことは、ずっと前から決まっていたんだが、那智が今日まで黙っているように言ってきてな」
「卒業した後、本格的な準備で忙しかったのもあるけどさ、何なら連絡もしないでやきもきさせてやろうと思って」
「……なにそれ、いじわるすぎるよ」
 すまなそうに言う慧とは対照的に、那智は小悪魔な表情を崩さない。
「でも、隣の引っ越しに気付かない真奈美せんせいも相当鈍いと思うぜ〜?」
「うっ」
「一応最初に挨拶に来たんだが、そのときも不在だったしな」
「ううっ」
「ま、それ以降は、おれが止めたんだけどね〜」
 考えてみれば、ここ数ヶ月、昼間に家にいることはなかった。だからと言って、隣の部屋の異変にも気が付かなかったとは……。
「とりあえず、作戦成功だね〜兄さん♪」
 落ち込む真奈美を余所に、首謀者の那智が穏やかな笑みを兄に向ける。
 真奈美は今日何度目になるか分からないため息をついた。
「……で、北森先生への報告も無事に済んだことだし、蕎麦でも頼もうと思うんだが」
 コホンと咳払いした後、まるで決定事項を確認するかのように話を振ってきた慧を、那智はジト目で睨む。
「慧〜、なんで蕎麦を食うことになってるのさ?」
「だから引っ越しをしたら蕎麦を食べるものだと、先ほどから――」
「おれだってピザが食べたいって、さっきから――」
「いい加減にしなさーーーーいっ!!!」
 また不毛な言い合いを始めた双子に、真奈美の堪忍袋の緒がぷっつり切れた。
「もうっ、兄弟喧嘩はやめなさい。今日から一緒に暮らすんでしょ?」
「だが…」
「けどさ〜…」
「二人の言い分なんて聞きません! 心配掛けたり、びっくりさせた仕返しに今日は私が食べたいものを食べます!」
「なっ…」
「ええー」
 何かを言おうとした二人だったが、真奈美は宣言通り耳を貸さない。
「食材はうちにもあるけど、三人分用意するのは難しいから、慧君と那智君には今から手分けして準備をしてもらいます!」
「手分けして…」
「準備するってことは?」
「そう、これから作るのよ」
 力強く肯いて、二人を交互に見る。
 慧と那智は真奈美の勢いに圧倒されながらも、互いに顔を見合わせて小さく微笑んだ。彼女の手作り料理という誘惑には、たとえP2でも敵わない。
「悪いけど、紙とペンを貸してもらえる?」
「なら、これを使え」
「は〜い、ボールペンもどうぞ」
「ありがと」
 それぞれを受け取ると真奈美は、メモに思い浮かんだ食材を書き込んでいった。双子の視線も自然と彼女の手元へと向けられる。
「卵…、小松菜…、葱に……ベーコン?」
「真奈美せんせい、一体何を作るつもり?」
「んー、秘密です」
 別に勿体振る訳ではないけれど、最後の仕返しのつもりでそんな風に答えてみる。
 最後の食材を書き終えた真奈美はペンを静かに置き、視線を戻すように双子を見上げた。
「じゃあ、慧君にはここで下準備を、那智君には買出しに行ってもらおうかな」
「りょ、了解した」
「らじゃ〜」
 素直に頷く二人を見て、真奈美は満足そうに目を細める。
「これからも仲良く準備しようね?」
「…む、努力する」
「は〜い」
「よろしい。じゃあ、那智君はこのメモに書いたものを買ってきてね」
「おっけ〜」
 そう応えると同時に、那智はメモを差し出す真奈美の手を握った。
「んじゃ行こうか、せんせい」
「へ?」
「那智、何をしている! 先生は僕と料理の準備をするんだぞ!?」
「きゃっ!」
 今度は眉を吊り上げた慧に、握られた手とは反対側の腕を勢いよく掴まれる。
「えーせんせいはおれと買い物デートするんだって」
「僕とここで準備をするんだ!」
 ぐいぐいと自分の方に引っ張る二人に挟まれ、真奈美は物理的な痛みと精神的な疲労に意識を失いそうになる。
 しかし、持ち前の負けん気の強さが彼女を現実世界に踏み止まらせた。言い争いを続ける慧と那智の間で、真奈美は大きく息を吸う。そして数秒後、
「だから、いい加減にしなさーーーーいっ!!!」
 方丈宅周辺に本日二つ目となる落雷が響き渡った。





 前回書きそびれた補足と、次に進む前触れを(笑)
 真奈美が作ろうとしてるものは、あまり気にしないでください。お願いします(笑)


 2009.4.4.up