*僕らの『願い』(前編) 「天十郎君、今日こそ補習を受けてもらうからね!」 「けっ、またオメェか! 毎度毎度、俺様のヨメ探しを邪魔するんじゃねぇやい!」 「でも、卒業できなきゃ困るでしょ? ね、一緒に勉強しよう?」 「はん、そんなの一人でやりやがれってんだ! どけどけどけぇ〜〜〜俺様のお通りでぃ!!!」 「くっ、逃げられた…。あ、千聖君はこれから時間ある?」 「くぁぁ……」 「それなら、補習――」 「面倒くさい。帰る」 「え、ちょ、ちょっと!」 「あれあれ〜センセーまだ教室にいるの?」 「八雲君、いいところに! ねぇ、今から補習しない?」 「ええ〜ムリだよぉ。ぼく、これから収録があるんだも〜ん」 「少しだけでもいいから」 「むぅ、そーゆーことなら早めに退散するナリ〜。じゃね、センセー♪」 「うう…」 「ティンカーちゃんってば、KKD? 困った顔してどうしたの?」 「……アラタ君」 「そんな子犬のように目を潤ませないで? ね?」 「じゃあ、補習を……受けてくれる?」 「ん〜、いくらティンカーちゃんでも、それはマジ無理ド無理なお願いだねぇ。デートのお誘いならいつでも大歓迎なんだけど」 「真面目に聞いて!」 「フフン、元気になったみたいだね? じゃ、お花たちを待たせてるからオレもそろそろ行くよ、アデュー」 「ま、待って! …………はぁ」 全戦全敗。 四人全員に逃げられ、教室に残された真奈美は一人盛大にため息をついた。 「相変わらず最悪だな、あの阿呆どもは」 「逃げ足の速さだけは評価するけどね〜」 「ふん、だがそれもこの僕には敵うまい」 「ま、それもそっか」 背後からの声に振り返ると、そこにはP2の姿があった。端整な顔立ちが、それぞれ対照的な表情を浮かべている。 「慧君、那智君…」 「せんせい、安心していいよ〜。あの四人はおれたちでちゃんと捕まえてくるからね?」 「お前はここで待っていろ」 「え、でも私も一緒に――」 言い掛けた真奈美の眼前に右手を出して慧がその言葉を遮った。 「いや、今日は僕たちに任せてほしい」 「ちょっとあいつらに言いたいことがあるんだ〜」 「言いたい、こと?」 「お前が気にすることではない。だから、ここで四人分の補習の準備でもしていてくれ」 「じゃ、せんせい、またね〜?」 そう言い残し、二人はClassZの教室を颯爽と後にした。 「二人ともどうしたんだろう?」 慧と那智の言動に疑問を感じつつも、真奈美は一人残された教室で彼らが戻ってくるのを待つことにした。 ――そして、数十分後。 「す、すごい……」 縄で身体をぐるぐる巻きにされたA4を目の前にして、真奈美は感嘆の声を漏らした。 「けっ、こんな格好にしなくても逃げねぇって言っただろーが!」 「ふん、その縄は今までの礼だ。有難く受け取るがいい」 「あははっ。みんな、すっごく似合ってるよ〜?」 「うっせぇ! おい、先生!」 「は、はい!」 いまいち状況の掴めない真奈美は、突然名指しされ思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。 「さっさと補習でも何でもやりやがれ!」 「くぁぁ〜、俺も天と同じだ。面倒だが早く済ませてくれ」 「ぼく、本当に収録あるんだよぉー? だから、お願い!」 「申し訳ないけど、オレも可愛い花たちを待たせてるんだよね。だからさ、巻きで頼むよ、いやもうホントマジで」 縛られながらも、好き勝手に自分の主張を口にするA4。 その口振りは協力的とは到底言えないものだったが、補習を受けようとしてくれている彼らの意思を感じ、真奈美は嬉しさで胸をつまらせた。 そして、四人を押さえつけている慧と那智に視線を向ける。 「二人とも、本当にありがとう。なんてお礼を言えばいいのか…」 「い、いや、僕たちは自分の務めを果たしたまでだ。礼などは必要ない」 「そうそう。せんせいが喜んでくれれば、それだけで十分だって」 頭を下げる真奈美に、P2はそれぞれの言葉を返した。 「で、でも……何かできることはないかな?」 「う〜ん、一番望むことは――」 「所詮、叶わぬ夢だ」 「……おれは奇跡を信じるけどね?」 「フッ、そうか」 「?」 「ああ、ごめんね、せんせい。何でもないよ」 二人のやり取りが飲み込めない様子の真奈美に気づき、那智がその目を細めた。 「あ! それじゃあ、何か私に手伝えることがあったら言って? 生徒会の資料整理や運搬とか、なんでもやるから」 「せんせい、それじゃあ雑用だよ〜?」 「うーん、だけど……」 「おい!!」 真奈美の言葉を、天十郎の大声が遮る。 「早くしろって言ってるだろーが! おめぇ、それでも俺たちの“担任”か!?」 天十郎は、視線を真奈美と、そしてP2に向けて言い放った。 「ご、ごめんね! 今、すぐ始めます!」 「それにさ、そろそろこの縄も解いてくんない?」 「ぼく、これじゃあペンも持てないでーす」 「うっ、そ、そうだよね…」 「こいつらのことは僕たちがやっておくから、焦らなくていい」 慌てる真奈美の肩に手を置き、慧が声を掛ける。その気遣いに、ありがとう、と真奈美は小さく微笑みを返した。 慧と那智がA4の元に近づくと、不機嫌な四つの仏頂面が二人を迎えた。 「不破っちょなら、縄抜けくらいできるんじゃない?」 「くぁぁ…面倒くさい」 マイペースな会話をする那智と千聖を尻目に、天十郎はもう一人の片割れを鋭く睨みつけた。 「……おい、方丈」 「なんだ」 二人の視線がかち合う。天十郎は真奈美の耳に届かないよう声を潜めながら訊ねた。 「さっき言ったこと、本気じゃねぇだろうな?」 「僕は、冗談は言わない」 視線を外すことなく、慧はきっぱりと答えた。 「おれも本気だよ。信じられないんだったら、頑張って繋ぎとめておくことだね?」 「くっ…!」 続く那智の言葉に、天十郎をはじめ他の三人も不愉快そうに顔を顰めた。 後編へ→ 軽い小話にするつもりが、思いがけず長くなってしまったので、分けることにしました。 これ、ちゃんとP2×真奈美になってるのかな…。 2009.3.2.up |