*アフター・バレンタイン! 登校時 真奈美は、聖帝学園に続く道を一人で歩いていた。 まだ完全に覚醒しきれていないためか、身体が少し重い。 「せ〜んせい、おはよ」 「…おはよう」 すぐ横から声を掛けられ、そちらに目をやると、見知った顔が二つ並んでいた。 「あ、慧君に那智君。おはよう!」 「……今日はこの時間なんだな」 「え、どういうこと?」 小声で言われた慧の言葉に、真奈美は首を傾げた。 「せんせい、昨日は学校行く時間いつもと違わなかった?」 「うん、昨日は朝から職員会議があったから、ちょっと早く行ったんだ。でも、よく分かったね?」 「…………やはり、そうだったか」 「?」 「おれたちね、せんせいと登校時間を合わせてるんだよ〜?」 「ええっ、そうだったの?」 「……ああ」 「あれ〜、せんせい、気が付かなかった?」 「うっ、……でも言われてみれば、最近よく慧君たちと一緒に学校に行ってるかも」 「でしょ?」 「こちらも急な会議や朝練があるときは無理だが、……可能な限りはな」 「長さでは敵わない分、早さで対抗してやろうと思って」 「早さ?」 「いや、何でもない。気にするな」 「……う〜ん? でも、一緒に行けるのは嬉しいな。こうやってお話もできるし」 「あ、ああ。僕もそう思っている」 「おれも〜」 「ふふっ。あ、そういえば、昨日はありがとう!」 「ん、チョコのこと? それなら、こちらこそありがとうだよ〜」 「ああ、那智の言う通り、礼を言うのはこちらの方だ」 「でも、慧君たちからも貰えるなんて思ってなかったから、私ももっと頑張れば良かったなって」 「僕たちは日頃の感謝を示したまでだ。その…“逆チョコ”というのも流行っていると聞いたし」 「そうそう。おれたちがやりたくてやったことなんだからさ、それをせんせいが気にすることはないんだよ〜?」 「う、うん…ありがとう」 「だが、こちらはちゃんと礼をするから、憶えておいてほしい」 「礼?」 「ホワイトデーを楽しみにしてね?ってこと」 「ええっ、私にお返しとかいらないからね? 慧君たち、いっぱい女の子から貰ったんでしょ? その子たちにもお返しするなら、大変なことになっちゃうよ」 「それはそんなに心配することないよ〜。おれたち、3月には卒業しちゃって、ほとんどの子には会えないだろうからね」 「う、確かにそうでした。でも、お返しを楽しみにしている子もいるだろうし……」 「問題ない。それに僕はお前以外からは貰っていない」 「え、そうなの? うちのクラスでも慧君にあげるって言ってる子たちがいたような――」 「慧はね、本命以外は校則違反なんだよ?」 「え?」 そう、耳元で囁かれる。 「おい、那智!!」 怒鳴る慧に、那智はただ朗らかに笑ってみせるのみ。そして、するりと真奈美の横を抜けると、軽やかに駆け出した。 「こら、逃げるな! 待て!!」 そんな那智を、慧が猶も怒鳴りながら追いかける。まるで子どものように追いかけっこを始める二人に、真奈美の未だ覚醒しきれていない身体は即座に反応することができなかった。 だんだんと遠くなる二人の背中を目で追う。 「せ〜んせい!」 少し先から、振り返った那智に呼び掛けられた。 「卒業しても、会いに行くから待っててね!」 その声は、澄んだ空気によく響いた。 昼休みへ→ ホワイトデーは生徒卒業後かもしれないということで、バレンタインの次の日のお話にさせていただきました。 2つ目以降は、A4が出ます。 2009.3.10.up |