*白銀に想いを込めて


「朝から思ってたんだけどさぁ、天ちゃんがピアス以外のアクセ付けてるなんて、珍しくなぁ〜い?」
「そうそう、ぼくも気になってたんだ〜。ねぇ、てんてん、よぉく見せてっ!」
「いいぜ! とくと見やがれってんでぇ!」
「どれどれ〜。わぁ、シルバーのペンダントだね〜!」
「おうよ! かっけーだろ!」
「……どうでもいいが、たまに眺めてニヤニヤするのはやめろ。正直気味が悪い」
「ヘッ! 気分がいいんだからよ、小せぇこと言うなよな、千!」
 昼休みのアホサイユに、A4の賑やかな会話が響く。中でも天十郎の声は、いつも以上に大きく朗らかだった。
 アラタと八雲に首元を覗き込まれ、天十郎は得意げにソファの上でふんぞり返る。胸を張って、そのペンダントを二人に見せ付けた。
「うん、てんてんによく似合ってるよー。でも、こんな可愛いの今まで付けてたっけ〜?」
「というか、一昨日? 休み前までは、ゼッタイ付けてなかったよねぇ?」
「ヘヘン、昨日買ったんだからな、見慣れねぇのは当ったりめぇよぉ!」
 表面的な変化にも目敏く気づく二人の鋭い指摘に、天十郎は機嫌よく答える。
「しかもなぁ、これはあいつと……」
「「あいつと?」」
「いんや、なんでもねぇ。これは俺様だけの秘密――」
「失礼しまーす。あのー、天十郎君、いる?」
 天十郎の言葉は、アホサイユの扉が開く音と真奈美の声に遮られた。だが、そんなことを天十郎が気にするはずもない。即座に真奈美がいる方に振り返ると、彼女に笑顔を向けた。
「おう! 俺様はここにいらぁ!」
「あ、良かった。あのね、今日の補習のことで相談したいことがあって」
「お〜何でも聞いてやんぜ」
 二人のやり取りに、アラタと八雲が顔を見合わせる。そして、
「やぁ、オレの可愛いティンカーちゃん♪」
「いらっしゃ〜い、センセー」
「あ、二人とも――わわっ」
 天十郎の横を通り過ぎると、二人は真奈美に勢いよく抱きついた。
「お、おい! おめぇら、先生に何しやがんでぇ!!?」
「何って、いつものスキンシップだよ。ンフッ」
「そうだよ〜、センセーに大好きのハグ〜」
「だぁー! は な れ ろ !!!!」
 天十郎の叫びをもちろん無視し(ちなみに今にも掴みかかりそうな彼を、千聖が羽交い絞めにしている)、アラタと八雲は真奈美の首元を覗き込んだ。
 しかし、目当てのものを発見できず、首を傾げる。
「おや、おかしいな。オレの勘違いだった、かな?」
「うう〜ん。てんてんの反応から推測すると〜、センセーの首にもきらりってあるはずなんだけどねぇ〜?」
「え? え? な、なんのこと?」
「それは〜」
「天ちゃんとの」
「「ペアペンダント、だよ♪」」
「「えええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!???」」
 アラタと八雲のとは比べものにならないくらいの音量で、天十郎と真奈美の声がハモる。
「て、て、て、天十郎君〜〜〜!?」
「い、言ってねぇ! 俺様は言ってねぇぞ!!!」
 未だにアラタたちに挟まている真奈美が、顔を真っ赤にさせて天十郎の名を呼ぶ。少し低くなっている彼女の声に気づき、千聖に両脇を押さえられたままの天十郎は自由に動く首を必死に振って否定した。
「というか、言わなくても分かるって、天ちゃん♪」
「だから、センセーも怒っちゃダメダメなのです〜」
「べ、別に怒っていません! この状況に驚いているんです!」
「まぁ、落ち着け、先生」
 少し離れたところにいる千聖に宥められるも、真奈美の気はすぐには治まらない。しかも、
「ねぇ、ティンカーちゃん。なんで今日付けて来なかったんだい?」
「そうだよぉ〜てんてんは大切に付けてるのに〜」
 などと、左右から問い詰められて、羞恥心まで込み上げてくる。
 そんな彼女を救ったのは、校舎から響く予鈴の音だった。絶妙のタイミングに安堵しつつも、教師としての立場が先に立つ。
「ほ、ほら、次の授業が始まっちゃうよ! 急いで教室に戻りましょ!」
 真奈美の呼びかけに、アラタたちがやむなく彼女から離れると、千聖も欠伸まじりに天十郎を解放した。
 みんなが授業をサボらないように、私が最後に出るからね、と告げる真奈美に、A4はアホサイユの入り口まで押し出されてしまう。
 そのとき、アラタが天十郎だけに聴こえるように耳元で囁いた。
「それにしてもさ、天ちゃんも結構やるじゃん?」
「ああ?」
「ティンカーちゃんにプレゼント。しかも、ペアのものなんてさ」
「ち、違ぇよ! これは俺様が欲しかったんでぇ! それに先生にやったのも、いつも世話してくれてる感謝の気持ちを示したからであって、やましい考えなんてひとっつも――」
「ンフッ、そうなの?」
「そうでぃ!」
「ま、そういうことにしといてあげるよ」
 意味深に微笑んで、アラタは天十郎の前を駆け抜けた。千聖や八雲も、その後に続く。
 天十郎も彼らを追いかけようとしたが、ふと振り返り、最後に残った真奈美に目を向けた。
「ほら、天十郎君も急がなきゃ」
「……あ、あのよ」
「ん? どうしたの?」
「学校に付けてきて……迷惑だったか?」
「え?」
「……本当はあんなの、いらなかったとか」
 声と視線を落とし、訊ねる天十郎に、真奈美は首を横に振ってみせる。
「そんな訳ないよ! 私、すごく嬉しかったんだから」
「で、でもよぉ…」
「このブラウス、大きなリボンが付いてるでしょ? だから、ペンダントが付けられないだけだよ」
「そうなのか?」
「うん、それにね」
「ん?」
「ちゃんと服の下に付けてるんだよ?」
「え? 本当か!?」
「うん、本当。だって天十郎君との約束のしるしだもん。ただ、証明したくても……ちょっと見せられないけど」
「ばっ、馬鹿野郎!! そんなの当ったりめぇだろーが!! だからな、見せなくていいぞ!? 俺様はおめぇを信じるからな!!!」
「ありがとう、天十郎君」
 頬を少しだけ赤らめて微笑む真奈美の前に、それ以上に顔を赤くさせた天十郎が左手を差し出す。
「ほ、ほら、手ぇ寄こせ!」
「へ?」 
「教室に着くまで、天十郎様が手を貸してやるってんでぇ!」
「……うん!」
 小さく頷いて、真奈美はそっと右手を重ねる。
 彼が暑がりだからだろうか。繋がれたその手は、とても温かく感じられた。


「…………見えなくてもいいけどよ、ずっと付けておけよ」
「え? なにー?」
「な、なんでもねぇ!! さっさと走りやがれってんだ!!」
 昼下がり、天十郎の照れ隠しの叫び声が、聖帝の敷地内を木霊する。
 彼の首に掛けられた白銀のペンダントが、日の光に反射して小さく瞬いた。





 喧嘩ップルではないけど、言い合いをしてる姿が微笑ましいです。あと、拗ねたりする天十郎も可愛い。
 それにしても千聖が目立たないなぁ…(笑)


 2009.4.6.up