*聖帝の“Little Red Riding Hood” 「ティンカーちゃんってば、ホント、マジで小さいねぇ」 補習の最中、アラタは隣に座る真奈美をじっと見てそう呟いた。 「うっ、確かに160はないけど……普通じゃないかな?」 それにヒールのあるものを履けば、それなりの身長になるから、と言い掛けて真奈美はやめた。 こんな言い方をしてしまったら、まるで今の身長を気にしているように見られてしまうと思ったからだ。 ……本当は160cmは欲しかったなんて、なんとなく言えない。 「そう? オレにはたまにホンモノの妖精さんに見えるよ」 「そ、それは周りに背の高い人が多いからです」 アラタのひと言に、真奈美は小さく反論する。 真奈美の言う通り、彼女の周りにいる生徒や教師のほとんどが男性で、しかも高身長の者ばかりなのだ。 彼女がその中で埋もれ、たまに消えたように見えなくなってしまうのも仕方の無いことなのかもしれない。 「まぁ、確かにティンカーちゃんの周りには野郎が多いよねぇ。もしかして、TKM? ティンカーちゃんって結構モテる系?」 眼鏡の奥の瞳を輝かせ、興味津々とでも言うように身を乗り出して問うアラタに、真奈美はため息をついた。 「……そうじゃありません。この学園は生徒や先生方も男子の人数が多いから、自然とそう見えちゃうんじゃないかな。それに――」 「それに?」 「それを言うなら、アラタ君の方がモテてるんでしょ? 女子の数が圧倒的に少ないのに、いつも周りにはお花ちゃん?…がいるじゃない」 「まぁ、それは否定しないケドね。でも、ティンカーちゃんほど小柄な女の子は、あまりいないかな?」 「うっ…」 「まぁ、抱きしめるにはいいサイズだし? オレは大歓迎だけど」 「そういうことを言わないの!」 「う〜ん、怒った顔もマジキュートだねぇ?」 注意するも、全く耳を貸してくれないアラタの態度に、真奈美は二度目のため息をつく。 身長の話に戻され、それに対してもまた少し落ち込んだ。 厳密に言うと、補習中にもかかわらず勉強とはかけ離れた話題へと脱線してしまっていることにも気づかないくらいには落ち込んでいた。 最近の子は、なんであんなに背が高いんだろう、と思考が若干別の方へ行きかける。 「私が小さいというより、やっぱりみんなが大きいのよ……たぶん」 羨望も込めて、少しだけ責任転嫁してしまう。 「というか、アラタ君も背が高いよね?」 「んー、A4の中ではイチバンかな?」 「そっか、いいなぁ」 「ティンカーちゃんは、今くらいで十分だって」 そう言って、真奈美の頭を二、三度撫でると、アラタは意味有り気に言葉を続けた。 「それにオレがデカイのにはちゃ〜んと理由があるんだよ?」 「え、そうなの?」 「ふふん、これくらいの身長があれば可愛いお花ちゃんたちがどんなに遠くにいてもすぐに見つけ出せるからね」 「うーん、なるほど」 全てを『可愛いお花ちゃん』基準で考えるアラタらしい答えに、真奈美は苦笑しつつも妙に納得してしまった。 「じゃあ、脚や腕が長いのは、テニスをやってるから?」 「それはね、一秒でも早く可愛いお花ちゃんたちの元へ行って、余すことなく抱きしめられるようにするためだよ」 「手が大きいのは?」 「それは、可愛いお花ちゃんたちの愛らしい手を優しく包みこむためさ」 ぽんぽんと出てくるアラタの気障な回答に、思わず真奈美から笑みがこぼれる。 「ふふ」 「DKW? どうしたんだい、急に笑って」 「アラタ君ったら、さっきから『赤ずきんちゃん』に出てくる狼さんみたいなことばかり言うんだもん」 「オオカミ、さん?」 「そう、おばあさんに変装した悪い狼さん」 ――ねぇ、おばあさん。おばあさんの耳はどうしてそんなに大きいの? ――お前の声がよく聞えるようにだよ。 ――おばあさんの目はどうしてそんなに大きいの? ――おまえの顔がよく見えるようにだよ。 ――おばあさんの手はどうしてそんなに大きいの? ――おまえをよく抱けるようにだよ。 「……ね、少し似てるでしょ?」 簡単な説明を終えると、真奈美は得意げに微笑みかけてきた。 アラタも幼い頃に耳にした、その童話を朧げにだが少しずつ思い出していく。 「へぇ、じゃあ、ティンカーちゃんはオレの赤ずきんちゃんってこと?」 「ふふ、今はそうなるかもね」 そう肯いて、また彼女は微笑む。 その笑顔は、どの花よりも眩しく愛おしい。 「んじゃ、今度はオレからの質問〜」 目の前まで顔を近づけると、アラタは獣のような鋭い視線で真奈美を射貫いた。 「KITO? 君を今すぐ食べちゃってもOK?」 前置きが長すぎた…。 周りが大きすぎるため、彼女が本当に小さく見えます。それをちょっと気にしてたら可愛いな、と(笑) とりあえず、アラタはうちのサイトの危険人物2号に決定(笑) 2009.2.22.up |