*boy meets a puppy 草薙先生から頼まれて、一匹の仔犬(♂)を預かることになりました。 期間は一ヶ月。次に草薙先生が来日するまでという約束で。 『それまでに飼い手が見つかればいいんだけどなぁ〜。駄目なら、お前イタリアに来るか?』 小さく震える仔犬(雑種らしくて犬種は分からなかった)にそう話し掛ける草薙先生の姿が未だに脳裏に残っている。 できることなら、自分が飼うと名乗り出たかった。 動物を飼うことが簡単ではないことは知っているけれど、責任を持って世話をする覚悟はあるし、そして何より飼い主の見つからないその子の傍にずっと一緒にいてあげたかった。 けれど、それには一つだけ問題があって――。 「おれ、犬って嫌いなんだよねぇ〜」 仔犬の身体をくしゃくしゃに撫で回しながら、そう告げる那智君に私は訊ねる。 「……苦手、ではないの?」 「別に〜。ただ犬って従順じゃん? そういうのって面白くない」 「面白くないって……」 「お手とかおかわりとか言うと、なーんも分かってないくせに尻尾振って従うんだぜ? ホント、アホだよな〜」 過去に噛まれたことがあったり、大型犬に追いかけられた経験があるとかならば気持ちも分かるんだけど、さすが那智君。やっぱりちょっと捻くれ…否、あとが怖いので何も言うまい。 「ほら〜お手してみろ、お手。って…うわ、いてっ!」 「どうしたの!?」 「こいつ、おれの指を噛みやがった」 目の前に出されたそれには、小さな歯形(牙形?)が浅く残っていて。 彼の手を気に入ったらしい仔犬は、今は掲げられた高さまで跳びつこうと必死にジャンプを続けている。 この光景を見る限り、ただじゃれ付いてるようにしか見えない。……なんだか、すごく微笑ましい。 たぶん、撫でられたこともあって、那智君(の手?)を遊び相手と思ってるんだろうなぁ。 「甘噛みされたんでしょ? それくらいの子って歯が痒くなるって言うし、その子に悪気はないと思うよ?」 「んなろ〜」 噛まれたと言いつつも、当の本人は別段気にしている様子もなく。 反撃とばかりに、仔犬を仰向けにさせてお腹の辺りをいじくりまくっている。……やっぱり微笑ましい。 「犬が従順って言うのは、那智君の先入観じゃないかな? 躾はもちろん必要だと思うけど、お手やおかわりを絶対しなきゃいけない訳じゃないんだし」 「まぁ、こいつみたいに言うこと聞かないアホもいるしな〜」 「……それはただ覚えさせていないだけだと思うよ?」 「あ、そっか。あはは」 朗らかに笑って、那智君はまた仔犬をくしゃくしゃに撫で回す。 「まぁさ、お前が飼いたいなら、おれは文句は言わないよ。好きにすればいいんじゃん?」 「…うん。とりあえず任された一ヶ月はちゃんと世話をするつもりだよ。それ以降は――」 那智君次第かな、という言葉を寸前で飲み込む。 一緒に暮らしているんだもの、私の我侭ばかりを通すのではなく那智君の意思だって尊重したい。彼が心から仔犬を歓迎してくれたらいいな、などと思ってしまうのも十分我侭なのかもしれないけど。 「あ、そうだ。この子の名前どうする? 草薙先生が付けていいよって言ってくれたんだけど」 「う〜ん、マナミでいいんじゃね? それなら愛着湧くし」 「……あのね、この子オスだよ?」 「ん〜じゃあ、ケイ?」 「……別にいいけど、もっと真面目に考えようよ」 「おれたちの子どもが生まれたときはちゃんと考えてやるって」 「もうっ」 茶化すことばかり言う那智君に、私はため息を漏らす。 そんな私の前に、ケイ君(仮)が覚束ない足取りで近寄ってくると、まるで慰めるように小さな舌で指先を舐めてくれた。頭を撫で、抱き上げると、今度は口の辺りをペロペロと舐める。 「わ、ケイ君ったらくすぐったいってば」 思わず声を上げるが、ケイ君(仮)はお構いなしという感じで、舐めるのを止めようとはしてくれない。 顔を背けると、その舌は首元に移って。 だから、くすぐったいって言ってるのに! 「いや…あははっ…ちょ、ちょっとっ!」 「…………」 「っん、ケイく…ん……っ、ひゃあ!」 「……………………却下」 不機嫌な声と共に、那智君の片手がケイ君(仮)を簡単に引き剥がしてしまう。 「え? どうしたのいきなり」 「ケイってのは却下。別の名前考えるぞ」 「ええっ、せっかく呼び慣れてきたのに?」 「……だからだよ。色々危険だし」 「え、危険?」 「……こっちの話。まぁそれよりも、だ」 仔犬のおでこに自分のそれをあて、那智君は不敵な笑みを浮かべたまま言葉を続けた。 「調子に乗らないようしっかり躾けてやるからな。覚悟しとけ、ワン公?」 この部屋に新たな同居者が仲間入りする日も近い……のかもしれない。 管理人、自己満SSです(笑) 犬嫌いの理由をどこかの雑誌で「従順だから」って読んだけど、春デートではアホ可愛いと言ってたり(別に好きとも言ってないけど)、慧をマルチーズに譬えたりしたので、苦手ではなんでしょうね。…多分。 2009.5.17.up |