*devil's love


「悪魔も人を好きになるんだね?」
 それは、休日で賑わうカフェで突然呟かれたひと言。
 久々に帰国した那智からランチに誘われた真奈美は、向かいに座った青年のその言葉に首を傾げた。
「え、どういうこと?」
「あの仙道せんせいに好きな人がいるなんて天地が引っくり返るほど驚きだな〜ってこと」
「こら! そういう言い方しないの!」
「だって、普通驚くだろ〜? あの仙道せんせいに、だぜ?」
 “あの”と二度も強調する那智に真奈美は頬を膨らませながら反論する。
「素敵なことじゃない。それに、私だって先生のこと好きだもん」
「おれはそういうことを言ってるんじゃないんだけどな〜」
 そう言って、那智は口を尖らせた後、少しだけテーブルに身を乗り出して真奈美に問うた。
「でさ、真奈美せんせいはこの恋実ると思う?」
「う〜ん、それは応援したいけど」
 ……相手が“あの”悪戯教師だと思うと、即座に肯けないのが正直なところだったりする。
「でも、珍しいね」
「ん、何が?」
「那智君が恋愛の話をするんだもの。もしかして、向こうで好きな子ができた?」
「うっわ〜、何それ。人のことどうこう言う前に、まずは自分のをなんとかしなよ?」
「先に話を振ったのはそっちでしょ!」
「あははっ」
 目を吊り上げる真奈美を見て、那智は愉快そうに笑った。聖帝学園を卒業し、日本から離れて暮らすようになった今でも変わらぬ様子の彼に少しだけ安心しつつも、ため息が出る。
「でも、やっぱり人を想う気持ちは大切だと思うよ。ちょっと心配だけど、成就してくれたら……嬉しいかな」
 それが、あの人の――大好きな先生の笑顔にも繋がるなら、と心の中で付け加えて。
「ふ〜ん。ってことはさ、せんせいは悪魔が人を好きになることも素敵だと思うし、その恋も実って欲しいって言うんだ?」
「だから、悪魔悪魔って失礼でしょ!」
「これは物の譬えだって。性格に難有りの奴に振り向く相手なんているのかなって」
「その譬えが失礼なんです!」
「い〜や、失礼なのは真奈美せんせいだね」
「ど、どうしてよ……」
「悪魔=仙道せんせいって勝手に結び付けてるじゃん」
「う、だって、さっきから仙道先生の恋の話をしてるじゃない」
「ちょっと前までは、ね。でも今は悪魔との恋について訊いてるんだよ」
「え?」
「悪魔と人間の恋ってさ、アリだと思う?」
 そう言って、真向かいに座る那智が顔を少し寄せてくる。
「……今日の那智君、少し変だよ?」
「それじゃあ、答えになってないぞ〜せんせい。不出来なおれに答えを教えてよ」
「うう……」
「ほ〜ら、早く。じゃないとキス――」
「思うっ! すっごくアリだと思います!!」
 身の危機を感じ、慌てて答える真奈美に、那智が首を傾げた。
「ホントに?」
「ホントよ、ホント!」
「な〜んか、言わされた感が拭えないなぁ」
「自分でそう仕向けたんでしょ!」
「まぁ、性急な回答を求めたのは確かだけどさ〜」
 拗ねる那智を見て、真奈美はもう一度ため息をつく。
「私も焦って答えちゃったけど、本当にそう思ってるんだよ。さっきも言ったよね、人を想うのは大切なことだと思うって」
「へぇ〜、そっかぁ」
 その含みのある相槌が何を示すのかは分からなかったが、なんとなく油断はできないと思った。
「気になってるみたいだから言うけど、おれ今仙道せんせいとちょっとした勝負をしてるんだ」
「勝負…? もしかして――」
「だいじょ〜ぶ。危険なことはしてないって……負けたら、もちろん罰ゲームだけどね」
 最後の言葉に若干不穏さを感じたが、那智の笑みがその追及を許さない。
「反対に勝者が得るのは真実の愛かな? な〜んて、あははっ」
「……で、何の勝負をしてるの?」
「う〜ん、ここまで言っても分からないなんて、せんせいもホント鈍いね」
「悪かったわね!」
 顔を真っ赤にさせながら言い返す真奈美を見て、那智は声を出して笑った後、彼女の目の前にすっと人差し指を立てた右手を差し出した。
「じゃあ、特別に大ヒント。おれと仙道せんせいの共通点を挙げてみなよ?」
「え?」
「さぁ、早く早く〜!」
「そ、そんな急に言われても……」
「は〜や〜く〜〜〜」
「え〜と………………い、いじわる?」
「あはは、最初に挙げるのがそれかよ。それに、仙道せんせいとの共通点って意味なら、嫌がらせ好きの方が正しくない?」
「自分で言わない!」
「それとね〜、結構仲間思いだろ。まぁ、おれは慧が一番だけど」
「……はいはい」
 共通点を数えるように指を折りながら続ける那智に、突っ込み疲れた真奈美は半ば諦めの表情を浮かべるも、
「あとね〜、今気になる人がいます」
「ええっ!?」
 突然の爆弾発言に思わず声を上げてしまう。
「ってことは、さっきはぐらかしたけど、やっぱりアメリカに――」
「相手は年上で〜、その人には特に嫌がらせをしちゃうんだよな〜」
 そう言って微笑むと、また指を一本折る。
「ちなみに〜職業は高校教師だよ。それぞれの恩師でもあるね〜」
「な、那智君…?」
「そういえば、真奈美せんせいは、おれがあっちで何て呼ばれてるか知ってる?」
 唐突にされた的外れな問いかけ。
 目を細め、口角を上げたまま訊ねる那智を見て、真奈美の脳裏にある不吉な英単語が過ぎる。
 それは、“あの”仙道清春にも形容されるもので。
「も、もしかして……」
「そ。多分、せんせいの想像通り! たまに“Satan”なんて言う奴もいるけど、いやはや光栄だね〜」
 からからと笑う那智の背後に一瞬黒く先の尖った尻尾を見たような気がして、真奈美は眩暈した。
 テーブルに肘をつき、頭を抱える彼女の耳元に誘惑にも似た甘美な囁きが届く。
「ねぇ、悪魔と恋をしてみない?」

 ――勝負の行方は、神のみぞ知る?





 ビタミンシリーズの通常EDって好きです。成立後より未満の二人に萌えてしまう性分に涙。
 と言いつつ、那智のは正直どれも捨て難いけど(笑)


 2009.4.2.up