* no word needed *


「お前、キライ」

 僕は目の前の少女に人差し指を向けて、そう言い放った。少女は突き出された指先を目を丸くして見つめてる。
 その言葉が持つ意味を少女は知りもしない。多分、それは僕も同じ。

「ステラは…むぐっ」

 声を出そうとした少女の口を、前方に出した手で透かさず塞ぐ。
 それ以上の言葉を僕は認めない。どうしても聞きたくなかった。

「お前はしゃべらなくていいの」

 そう言うと、少女は端整な眉をへの字にさせた。菫色をした瞳も心なしか潤んで見える。
 
「そーゆー顔するなよ、見ててムカつく」

 僕は少女を睨み付ける。口を塞いだ手はまだ離さない。
 もう片方の手で、少女の肩を掴んだ。その力が強すぎたのか少女は顔を僅かに顰める。
 けれど僕は気にせず、その肩を自分の方へと引き寄せ、金色の髪に顔を埋めた。
 心地よい芳香を持つ髪に隠れた彼女の耳を見つけ出し、息を吹きかけるように、静かに、そっと囁く。

「ダイキライだよ」

 僕の中にいる少女の肩がびくりと震えたのを感じた。
 それが、さっきの言葉から生じた動きなのか、それとも単にくすぐったかったからかなのかは、僕には分からない。
 なにせ、この角度からでは彼女の表情までは読み取ることはできないから。だからこそ、こうしているのだけれど。


 相手に嫌われたくないのなら、初めから好かれなければいい。
 それなら嫌われる心配もない。"このような”不安も持たずにすむ。
 そして、
 相手に好かれないないのなら、こちらも嫌いになればいい。
 それなら好かれる心配もない。"このような”不安も持たずにすむ。

 ……あーあ。
 でも、
 でもなんて寂しいことだろう。
 せっかく貴方に出逢えたのに。こんなに近くにいるのに。
 なんて、なんて悲しいことだろう。


 僕は、少女の口を塞いでいた手をゆっくりと離す。
 肩に置いた手も静かに背中へと移した。

「……ごめん、うそ」

 僕が消えそうな声で呟いた、少し後、少女の両腕が僕の背中に回された。
 言葉を発することもなく、ただ優しく、そしてしっかりと包むように。慈しむように。





 前回書いたときのアウルは「好き好き」言わせすぎたので、今回は天邪鬼にしてみました。

 2005.9.29.up