* 海色模様 *


 ステラは艶やかな水色のそれをじっと見つめていた。
 その色は、ステラの好きなものによく似ている。
 白を基調とした殺風景な部屋の中で、水色のそれだけがステラの視線を釘付けにした。

 海色の髪を持つ少年アウルは、自分のベッドに横になり、雑誌を退屈そうに流し読みしている最中だった。
 右の掌に顔の体重を乗せ、欠伸交じりに雑誌に目を運んでいる彼の表情など、背後にいるステラには分かるはずもない。
 碧の瞳が左から右へ移り、ページを捲るたびに、小さく頭も動いた。

 ステラは獲物を見つけたハンターのように、水色の頭から視線を外すことなく、じりじりとにじり寄った。
 当のアウルは、背後にいるステラの奇妙な動きに気付くわけもなく、雑誌を漂然と眺めていた。
 一定の位置まで距離を縮めるとステラは体勢を低くした。狙いを定めて……標的に勢いよく飛びつく。

「うわぁっ!」

 不意の襲撃にアウルは声を上げた。背中に人の体温と重みを感じる。

「な、なにすんだ、てめぇ!!」

 上半身を起こそうとしたが、ステラが上に乗っているので、なかなか上手くいかない。振り払おうともがいても、アウルの上に平然と乗る少女には効果はなかった。
 ステラの方は、気にする素振りも見せず、細い両腕をアウルの首に回してくる。

「おい!」

 アウルが怒鳴っても、全くお構いなしという様子でステラは頬を頭部に摺り寄せた。喉を鳴らし、心地よさげな声を漏らす。

「アウルの髪、きれい」

 そして、アウルの海色の髪に顔を埋めた。

「あ゛ー、なんだよ、いきなり! 重い! どけ、バカ!」
「やー」

 罵声を浴びても、怯むことなくステラはアウルに身を寄せていた。そんな彼女の行動が更にアウルを苛立たせる。

「てめっ、殴るぞ!」

 そう言って右腕を勢いよくあげたが、背後のステラに届くわけもない。空に上がった少年の腕が虚しくベッドの上に落ちる。
 しかし、少女はアウルの首からするりと腕を抜くと、身体をゆっくりとベッドの上に移した。
 好機とばかりに、ステラに掴み掛かろうとしたが、その前に顔を両手に包まれる。そして少女は恍惚とした表情で、じっとアウルを見つめた。
 重なり合う、紅と碧の瞳。

「アウルの瞳も、きれい」
「ああ?」

 ステラの言葉に、アウルの眉がつりあがった。全くもって意味が分からない。

「もっと見せて」

 アウルの胸中など知るはずもないステラは、そう言って、自身の顔を寄せてくる。ステラの突然の行動に身を引こうとしたら、自分を支える体重が後方に傾いた。

「う、うわぁ……っ!」

 アウルの悲鳴と共に、どしんという音が部屋中に響く。
 バランスを失って、見事に背中から落ちたアウルは天井を眺める体勢になった。
 背中に走る鈍い痛みよりも、羞恥心の方が勝り、彼の眉を歪ませた。心配そうに覗き込み、それを見つめるステラの表情が、アウルの苛立ちを更に煽る。

「……大丈夫?」

 しかし、少女はそんなことにも気付きもせず、右腕をアウルの前に差し出した。海色をした端整な眉が更に歪む。

 起こしてくれるとでも言うのだろうか。そんな細い腕で?

 アウルはふんと鼻で笑うと、

「お前、キライ」

 そう言って、差し伸べられた手を力強く引っ張った。小さな悲鳴と共に、部屋にまた一つの音が響いた。

「うざいからさ、これ以上動くなよ」

 落ちてきたステラを両腕で抱きしめると、返事を待たずに自身の顔を少女の胸に埋めた。





 1900番を踏んでくださった、零杏さんのリクでステラ→アウルです。・・・あれ、全然片思いちっくになってないかも!?(ぎゃふん)
 ステラがアウルを襲撃するというネタが降ったとき、いける!と思ったんですが(襲撃という時点で間違ってる)
 なんだか空回っててすみません(私が)

 リクしてくださった零杏さまに捧げます。ご希望に添えてるか分かりませんが(>_<)
 最後にリクエストして頂き、ありがとうございました!


 2005.5.7.up