* 好きの理由 *


「アウルは海の香りがする」
 そう言って、ステラは僕の腕に手を回し、身を寄せてきた。
 顔を覗き込むと、菫色の瞳と視線がかち合う。

 その瞳は何を見てるのか?

 恍惚とした表情を見せるステラを見て、なんだか不愉快になった。

 こいつは“僕”を見ちゃいない。
 見ているのは、真っ青な僕の瞳。
 触れるのは、海の色をした僕の髪。

 でも、こいつは“僕”を見ちゃいない。

「ねぇ、お前が海好きなのは勝手だけどさ、僕を巻き込まないでくれる?」
 僕の不機嫌な言葉に、ステラの表情が一瞬固まる。
「べたべた暑苦しいんだよね、いつも」
 そう言い捨てて、腕に纏わり付くステラを払おうとした。しかし、少女は簡単には放してはくれない。
 それならばと、畳み掛けるように言葉で攻める。
「海が好きなら、海に行けばいいだろ」
 溺れたって助けてやらないし、迷子になったって探してやらない。
 そんなに好きなら、海底に沈んじゃえば?とも言いたくなった。


 だけど、僕の黒い感情を打ち消したのは、ステラの一言。
「うん、行きたい」
「はぁ?」
「アウルと行きたい」
 僕の間抜けな声に、ステラは目を細めて応えた。
「……お前、僕の話聞いてた? 僕を巻き込むなって――」
「だめ?」
 僕の言葉を遮り、首を傾げて尋ねてくる。
「海、好きだから、アウルと行きたい」
「……あっそ」
 僕の想いなんか知らずに、暢気に言うステラ。
 そうやって、いつもいつも僕を振り回す。僕の心を掻き乱す。

 こいつは“僕”を見ちゃいない。
 見ているのは、真っ青な僕の瞳。
 触れるのは、海の色をした僕の髪。

 僕の願いはただ一つなのに。
 “僕”を見てほしいだけなのに。

 目の前の少女を壊したいと思うほど憎らしく感じることもある。
 同時に壊すほどに愛したいとも思う。
 無邪気に罪を作るステラ。

 でも、そんな彼女を許してしまうのも、僕。

「お前が好きなら、いいんじゃん? 別に」
 僕が溜息交じりに言うと、ステラはぱぁっと表情を明るくさせた。敵わないよな、ホント。


 また顔を覗き込むと、菫色の瞳と視線がかち合った。そっと頬に触れると、視線がそちらに移る。
「でもさ、違う奴と海に行くのと、僕と何処か違う処に行くのとだったら……お前はどっちを選ぶ?」
 尋ねる僕に視線をゆっくりと戻し、ステラは小さく呟いた。「   」と。


 鈴の音が
 微かに
 でも確実に
 “僕”を呼んだ。


 だけど。
「そんな声じゃ聴こえないー」
 僕は不満を露にして、ステラの頬を軽く抓ってやった。そして、小さく悲鳴を上げる少女の口を僕のそれで塞ぐ。


 大人気ないって分かってるさ。餓鬼みたいだって自覚もしてる。
 でも、僕は海にも嫉妬する。

 もちろん、負ける気はないけど。





 2000番を踏んでくださった、静歌さんのリクで甘いアウステ…です。
 毎回アウルの性格が違っていて、申し訳ありません。
 とうとう、人間以外にも喧嘩売り始めました、この子(笑) どうしよう、止まらない!(止めろ)
 どんなアウルもステラ好きっ子なのは変わりませんので、ご安心(?)くださいv

 最後に静歌さま、リクエストをして頂き、ありがとうございました!
 良かったら、受け取ってやってください!


 2005.5.16.up