* hand in hand *


 艦内の廊下の曲がり角で、アウルはふと足を止めて、振り返った。
 そして、遥か後方で歩いている一人の少女に向かって、
「ステラ〜、遅い」
 と、不機嫌な声を投げかける。
 呼ばれたステラは、ちょこちょこと幼女のような足取りで駆けた。とはいっても、それは決して速いものとはいえないのだが。
 アウルの隣で、その様子を見守っていたスティングは、まるで犬みたいだな、と思った。飼い主に呼ばれ、尻尾を振りながら一目散に駆けてくる。
 なんとも微笑ましいではないか。

「二人とも……歩くの、早い」
 やっと追いついてきたステラが、頬をやや紅潮させて言う。
「は? 何言ってんの? お前がとろいだけだっての、ばぁか」
「おい。アウル、言い過ぎだ」
「だって、ホントのことじゃん」
 スティングの制止に、アウルは悪びれもなく言い放つ。
 しゅんと肩を落とすステラを見やり、スティングは溜息混じりにその頭を優しく撫でてやった。
「俺らが歩調を合わせてやりゃあ、いいだけだろ。チームワークも必要だぜ?」
 そう言って、さっさと歩き始める。
「なんだよ、リーダーぶるなっての」
「正論だ。ネオにも言われただろ」
「ちぇー」
 スティングの言葉に反論できず、アウルはただ頬を膨らませた。
 ふと目線を下にやると、未だに顔を上げようとしないステラが立っている。
 アウルはふうっと一気に息を吐き出すと、少女の前に右手を差し出した。
「ほ〜らっ」
「?」
「手、貸せよ。引っ張ってやる」
「……うん!」
 ステラは軽く微笑むと、細くて白い左手をアウルの手に重ねた。


 重なった少女の手のひらの感触は、柔らかで、とても優しかった。
 小さくて、温かい。
 いつも握っているのは、鮮血に染まった鋭利なナイフ。
 いつも握っているのは、無機質な殺戮兵器のコントローラ。

 それでもアウルはステラの温かさを知っている。


「何やってんだよ、お前ら」
 前方から、スティングの呆れた声が響く。
「スティング〜、引っ張って」
 アウルが空いている左手を差し出すと、スティングは小さく苦笑した。
 しかし、
「馬鹿言うな、置いていくぞ」
 二人に背を向け、ずかずかと歩き出す。
「あっ、おい! 待てよ! 歩調合せるって言ったのお前じゃんか!」
「だからって、手ェ繋いで歩いてやるとは言ってねぇ!」
「うそつき! ばーか! 見栄っ張り!」
「なんとでも言えっ!」
「ふふっ」
「「ステラ、そこ笑うとこじゃない!!」」

 今日も、ガーティ・ルーの廊下に少年少女の声が響く。


 並んで歩こう。
 今も。
 そして、これからも、ずっと。






 初めて書いたかも、こんな和やかな新連合(笑)
 ホントなら兄さんも手繋いでくれそうだけど、ここでは敢えて見栄を張らせました(笑)

 2005.11.17.up