* 僕の玩具 *


 スティングは何かと世話を焼きたがる。
 それは僕に対しても、ステラに対してもだ。


 今も、廊下でぼーっと突っ立っているステラを見つけると、慌ててそっちに向かって行ってしまった。
 一人残された僕は、呆れ顔で、2人のやり取りを見る。
 距離があるので、会話までは聞こえないが、ステラのことだ。また、ふらふらしてただけだろ。
 子供はお寝んねしてな、と心の中で呟く。
 そんな感じのことをスティングも言ったんだろうか。まぁ、もう少し気の利いた言葉を選んだんだろうけど。
 ステラは、スティングの言葉にこくりと頷いただけだった。だめだめ、そいつはネオ以外には興味ないの。
 けど、スティングは満足げによしよしと言わんばかりに、ステラの頭を撫でて、そのまま部屋の中に促した。
 まったく、兄貴気取りかよ。


 ステラを部屋に入れると、やっと僕を置いてきぼりにしたことに気づいたらしい。こっちに振り返って「なにしてるんだ」と言ってきた。
 その言葉を、そのままあんたに返したいよ。
 僕は軽く溜息をつくと、重い足取りでスティングのもとに向かった。
「スティングさぁ、あいつに甘すぎじゃね?」
 僕の言葉に、スティングはナイフのように鋭い瞳をこちらに向けた。
「あんまり構わなくていいじゃん。あんなのに」
 そう付け加えて、ステラの部屋の扉を顎で指す。スティングの目もそちらに移る。
「なんだ、お前。妬いてるのか?」
 スティングは、口の端を上げて笑った。
「そんなんじゃねぇよ」
「どうかな。俺には、大切な玩具を取られたガキに見えるぜ?」
「僕はそんな幼稚じゃないね」
 それに、“取られた”じゃない、“取られそうになった”だけだろ。
 別に焦ってもないし、動揺もしてない。やきもちなんて馬鹿げてる。僕はあんた程、暑苦しくないんだ。
「言ってろ」
 僕の反論に、スティングは肩を竦めると、くるりと背を向けた。そして、廊下を歩き出す。
「お前も自覚しろって」
 そう言って、片手を2、3度振って、自室に入ってしまった。シュッとドアが閉まる音の後、また僕だけが取り残される。


 自覚しろ、だって?
 馬鹿なこというなよ。

 僕はそこまで素直に出来ちゃあいない。
 気持ちに気づいたら、遊べないだろ? 玩具とさ。


 僕は、閉じられた扉を見つめる。
 その奥にいるであろう少女に、なんて声を掛けようかと思考を巡らせながら。


 ねぇ、遊ぼうよ、ステラ。まだ君を眠らせない。
 僕がいる限り、お前に安息なんて与えられないんだ。
 お互いに壊れるまで、付き合ってもらおうか。


 そして、僕は君の部屋に導かれるように足を進めた。






 なんか読み方によっては、アウル→スティングみたいな話になってしまいました。
 ステラのことを可愛い玩具だとは思ってるけど、それを恋愛対象とは認められないアウルの話、のつもりです。
 次書くときは、もっとステラも絡ませたいです。
 というか、これはアウルじゃない!(汗)


 2005.3.8.up