* forget-me-not *


 僕を忘れないで

 僕を忘れないでください

 その捨てられたハンカチのように、あの紅い瞳を持つ少年のように

 僕という存在も“揺り篭”の中に置き去りにしないでください




「ねぇ、ねぇ、君はだぁれ?」
 僕は目覚めたばかりの少女に尋ねた。金色の髪が微かに揺れる。

「わたし、ステラ…」
 突き出された僕の人差し指を見ながら、彼女はゆっくり応えた。
 そう、君は“ステラ”。他の誰でもない。

「じゃあ、僕はだぁれ?」
 今度は人差し指を自分に向けて、首を傾げてみせた。
 同時に彼女の視線も僕と重なる。

「アウル」
 感情も入ってないような短い答えだったが、寂しがり屋で心配性の僕には充分すぎるものだった。
 胸が熱くなるとは、こういうことだ。

「せいかーい」
 僕は頬に軽くキスをすると、思いきり“ステラ”を抱きしめた。顔に掛かる彼女の髪がほのかに薫って、心地よい。
 彼女はきょとんとしながらも、それを受け入れてくれた。いつものように。
 細い腕が僕の背中にまわるのを感じる。それもまた、心地よい。

「おはよう、ステラ〜」
 彼女の体温を全身に感じながら、僕は言った。
「うん。おはよう、アウル」
 鈴のような声を返す彼女を、僕はきつく抱きしめた。








「何やってるんだよ、毎回毎回っ」









 僕たちの抱擁は、背後の声に邪魔される。僕は名残惜しさを感じながらも、彼女から身を放して、声の主の方を振り仰いだ。
 刃物のように鋭い瞳と視線が重なる。そいつは、眉を顰めて、僕らを見下ろしていた。

「何って、僕らの存在確認」
 僕は口端を上げて、そう応えた。ステラの頭を撫でながら。
「はぁ? なんだよ、それ」
 僕の答えにそいつは、納得がいかないようだ。顰めた眉を更に深くする。

「何、妬いてんの?」
「バ、バカ言えっ。呆れてるんだよ!」
 分かりやすいヤツ。
 そう思って、僕はくすくすと笑った。

「じゃあ、今回は特別にお前も入れてやるよ。……君はだぁれ?」
 人差し指をそいつに向けると、三白眼は「付き合ってられるか」と溜息をつき、足早に廊下へと消えてしまった。

 あらら、ホントに呆れられちゃった。
 僕は、廊下に続く扉をじっと見つめた。



「スティング」



 ふいに耳元に鈴の音が聴こえた。振り向くと、菫色の瞳が僕を見つめていた。

「スティング、でしょ? アウル」
 そう言って、扉の方を指差す。
 感情も入ってないような短い答えだったが、寂しがり屋で心配性の僕には充分すぎるものだった。
 胸が熱くなるとは、こういうことだ。

「せいかーい」
 僕は頬に軽くキスをすると、彼女を思いきり抱きしめた。




 僕を忘れないで

 僕を忘れないでください

 例え僕が君の傍にいられなくなったとしても、いつまでも君の中に留めていてください

 僕という存在を“揺り篭”の中に置き去りにしないでください





 “最適化”で消えてしまう記憶はどこまでなんだろう?と思い、こんなの書いてみました。
 毎回、こんな確認をしてたら可愛いなぁ、とか思って(笑)
 ステラが忘れてるハンカチのこと、なんでアウルが覚えてるの?という突っ込みはなしで(汗) 愛ゆえに、です(笑)
 ホントはスティングは登場させないつもりだったんですが、ツッコミ役も必要だと思い、入れちゃいました。
 蛇足なような気がしなくもないです(汗)
 最後の方はシリアスですが、私は別にアウルが死んじゃうのとかを希望していませんので!!
 むしろ生きててほしいですよ! 3人とも!!


 2005.3.21.up