* ちょうどいい *


「僕、思うんだけどさぁ」

 艦内の廊下を歩いている途中、アウルは急に立ち止まってそう言ってきた。
 アウルはいつも、そう。行動がいつも突然で、私は少し戸惑ってしまう。
 私も足止めて、アウルの方に振り返ったら、彼は次の言葉を紡いだ。

「ネオはデカすぎだよね。あんなに背があったら目の高さ同じにすんの、お互いに大変だと思わない?」

 同意を求められても、言っていることの意味がよく分からなかった。

「……なんのこと?」

 首を傾げて尋ねると、アウルは右の人差し指をぴんと自分に向かって立ててみせた。

「僕は顔を思いっきり下げなきゃいけないし――」
「……?」

 そして、今度はその指を私に向けて言う。

「ステラはすごい背伸びしなきゃならないじゃん?」
「……??」

 ごめんね、アウル。ステラには分からないよ。
 私がそう言おうとしたとき、言葉を遮ってまたアウルがしゃべり出した。

「だからってスティングだと中途半端だよな。それに、あいつ意外と身体硬ぇし」

 最後の方を囁くように小声で言うと、にっと歯を見せて笑う。

「だからねぇ、僕はこれが一番ちょうどいいと思うんだ」

 私に一歩近づいて、アウルは自慢げにそう言った。
 ちょうどいい?
 ネオは背が高すぎて、スティングは中途半端で……

「ねぇ、なにが?」
「ったく、鈍いなぁ、ステラは!」

 そう言って声を上げるから、また怒らせてしまったのかと思って、私は身を竦ませる。

 だけど。
 アウルが私にくれたのは、怒鳴り声でも、勢いよく下ろされた掌でもなかった。
 ただ、とても優しい感触を一つだけ。
 アウルの唇が、そっと私のそれに触れて、すぐに離れた。

「こーゆーことっ」

 そして、また無邪気に笑ってみせた。

 うん。
 アウルとステラは、ちょうどいい。





 初めてのステラ視点です。
 うーん、難しいっ。
 アウルがアウルじゃなくなっていますが、こんな彼もたまにはいいです…よね?(笑)

 2005.6.10.up