*傷口*
体が熱い。
斬られた腹が、無視出来ないほど激しく痛む。
大きな口を開けた肉が、赤黒い液体の流れに合わせて、止まる事なく脈打つ。
よく、「人間が死ぬ時には、これまでの人生を走馬灯の様に思い出す」と言う話を聞くが、どうやらそれは、まんざら嘘でもなかったらしい。
現れては消えていく過去、思い出。
そのほとんどが、戦場の中で流れていたような気がする。
「ふ・・・馬鹿らしい」
我ながら、つまらない人生だったと思う。
常に戦いの中に身を置き、死と隣り合わせだった。
そんな状況に慣れていたせいか、いつでも死ぬ覚悟は出来ているつもりでいた。
でも、今は恐くてたまらない・・・。
自分という存在が消えるのが嫌だ。
忘れられていくのが嫌だ。
「消えたく・・・ないッ」
情けないのは分かっているが、自然と涙が溢れてくる。
頬を伝って、流れては草の間に消えていく。
何もない森の中で、人知れず涙を流しながら死んでいく。
なんて惨めなのだろうか。
木々の揺れる音だけが、死にゆく自分を哀れんでいてくれているような気さえした。
それ以外には、なんの音も聞こえなかったから。
「ラフィン!!」
聞き慣れた声と共に、誰かの走って来る音がしたような気がした。
「・・・ひどい」
声の主は、俺の傍まで走って来ると、そのままそこに座り込んだ。
空耳ではなかったらしい。
「ラフィン!
ねぇ、しっかりして!!」
閉じていた目を開けると、そこには俺の愛していた人の顔があった。
「まだ、思い出は続いているのか・・・」
「何言ってるの・・・。
私、思い出なんかじゃないよ!」
目の前の思い出は、目にたくさんの涙を溜めて俺の事を見つめている。
その涙のうちの一滴が流れ、俺の顔にこぼれ落ちた。
つられる様に、顔へ手を持っていってみると、確かに濡れている。
「本物・・・ですか?」
「そうだよ・・・本物のサーシャだよ・・・」
もう、思い出と現実の境界線が分からない。
それでも今の自分には、これがもし幻だとしても、このサーシャ王女に託すしかないと分かっている。
「サーシャ王女・・・」
「何・・・?
ラフィン、何?」
「見ての通り・・・、俺は、このまま死ぬでしょう・・・」
「嫌、嫌だよ!
そんな事言わないでよ!!」
サーシャ王女はこれまで以上に泣き崩れると、そのまま俺の胸に顔を埋めた。
人の肌の暖かさが、直に伝わってくる。
もしかすると、本当に現実なのかもしれない。
「でも俺は・・・死んでこのまま・・・忘れられるのが嫌なんです」
サーシャ王女は、黙って泣き続けている。
「だから・・・サーシャ王女だけは、俺の事・・・絶対に忘れないで・・・ください」
「思い出が・・・」
「?」
「思い出が足りないよ!!
私に、絶対に忘れられない思い出をちょうだいよ!!」
サーシャ王女は顔を上げると、大泣きしながら俺の胸を何度も叩いた。
正直言って驚いた。
こんなに感情を乱したサーシャ王女を見るのは、初めてだったから。
でも、この痛みは本物だった。
紛れもなく現実だと、やっと分かった。
「ねぇ・・・お願い・・・」
「・・・・・・分かり、ました」
俺は残された力を振り絞って、サーシャ王女の手を取ると、その手を傷口まで持っていった。
「な、何?」
指を、鮮血で溢れる傷の中へと、無理やり押し込んだ。
「ひッ!」
激痛で、額に汗が滲み出てくる。
裂けた肉に、女の少し伸びた爪が当たって、言葉では表しようの無い激しい感覚が体中に走る。
「何やってるの・・・?
ねぇ・・ねぇ、ラフィン!!」
「く・・・」
俺の体の中に、サーシャ王女が確かにいる。
それだけで、微かに性的興奮を感じたような気がした。
指を抜き去り、血でベトベトに濡れた手を、サーシャ王女が見つめている。
その顔は、恐怖を感じているのか、引き攣っている。
「何・・・これが何なの・・・?」
「分かりましたか・・・今のが・・・はぁはぁ・・・俺の感触と熱ですよ」
傷を更に広げたせいで、呼吸もままならない。
時間がない、そう思った。
俺は再びサーシャ王女の手を掴むと、今度はそれを彼女の口へと持っていった。
「え・・・?」
「舐めて・・・」
「え、何・・・?
ごめん、ラフィンがどうしたいのか分からないよ・・・?」
色んな感情の入り混じった、引き攣った笑いを浮かべながら、サーシャ王女は俺を見た。
「俺の思い出が・・・欲しいのですよね・・・?
だったら、舐めてください・・・」
唇に指を押し当てると、サーシャ王女は泣きながらそれを舐め始めた。
「ん・・・う」
「分かり・・・ますか?
はぁはぁ・・・これが、俺の味・・・ですよ?」
俺への恐怖に、感覚がおかしくなってしまったのか、サーシャ王女は必死に指を舐め続けている。
指に絡まった血を綺麗に舐め取ると、口の周りを真っ赤に染めたまま、優しく微笑んだ。
「ねぇ、ラフィン?
どうせ死ぬのでも、独りは嫌でしょ?」
「サーシャ王女・・・、まさか・・・死ぬつもり、ですか・・・?」
「ううん、違う。
あなたが死ぬまで、今度は私の熱を感じさせてあげる」
もう、サーシャ王女も俺も、壊れてしまったのだろう。
死への恐怖が、自分達を全部おかしくしていく。
サーシャ王女は俺にまたがると、そのまま重なるように上でうつぶせになった。
顔を近付けて、その血まみれの唇で最後の口付けをした。
鉄の味のする舌が入ってくる。
まるで生き物の様に、口腔内をねっとりと味わい、お互いに吸い上げる。
血と唾液が混ざり合い、薄く色づいた液体が、口から流れ落ちる。
「ねぇラフィン・・・、最後まで、したかったね・・・」
俺の意識がいつまで持つのか、それは分からない。
ただひとつだけはっきりした。
この女は、俺を永遠に忘れないないだろう。
交わした血の味が、消えることのない確かな思い出。
END
すいません・・・自分で書いていて、なんだかよく分からないです。
沙璃には、「純愛でいこう!」とか言ってたのに、どこら辺が純愛なのか、もうさっぱり・・・。
しかも、かなり短時間で書いたために、いつも以上にヘッポコです。
「こんなの、ラフィンとサーシャじゃない!!」って思われる方、続出かと・・・。
ほ、ほんとに申し訳ないです!! どうか、許してください・・・。
@沙璃へ@
あはははは〜〜vv ごめんねぇ〜、だから明るい話は書けないよ!って言ったじゃねぇか!
しかもラフィン死んじゃうし・・・。
一応、言い訳をするとさ、「私の専門は、こっちじゃないからv」とかになるはず。(謎)
とにかく、お誕生日おめでとう!
瑠樹奈
++++++++++++++++++++++++++++++++++++
ありがとーーー、友よっ!!!!! 感激の余り、涙がちょちょ切れてますvv(謎)
あー、やっぱ小説を書いてもらって良かったっす☆ 最高ですわ、奥さん!!
ラフィン、死んじゃったけど(泣) でも、それはそれで嬉しいv(←変)
それに、血の契りって素敵です。
あと最期の言葉が「リュナン公子、後は頼む…」じゃなくて、良かったぁ〜(笑)
でも、はじめラフィンの「舐めて…」にドキッとした私は、もうアナタの影響を十分に受けてるんだな、と自覚しました(苦笑)
これは、喜ばしきコトなんだろうか…??
え、そっち系が専門だって? そんなコト言わずに、これからも’純’で頑張ってください。
そして、またよかったら頂戴〜v …ふふふ、私みたいな文才のない友達を持ったのが、運の尽きでしたねvv(最悪)
それでは、素敵なお誕生日プレゼントを本当にありがとでした!!
沙璃