* thanks *
ヴェイグが倒れたのは、とても日差しの強い日のことだった。
初め熱射病かと心配した一行であったが、ヴェイグの病状はそれ以上に厄介なものであった。体温が急激に上昇し、声を掛けても彼が目を覚ますことはなかった。長旅による疲れが一気に出たのだろうと考えられるが、幼なじみの救出を焦る気持ちや、自分のことをあまり顧みない彼の性格が、自らの容態をさらに悪化させたと言えなくもなかった。
一旦、近くの村に引き返した一行は、ヴェイグを宿屋で休ませ、これからの相談をした。結論はすぐに出た。第一にヴェイグの意識が戻り、容態が安定するまでは、村に留まること。そして、仲間たちもまた自分の身体を休ませること。リーダーであるヴェイグが倒れたことは、仲間たちを少なからず動揺させた。それだけ自分たちの体力は奪われているのだと、それぞれが認識する結果となった。
一行の中でも比較的に体力面での疲労のなかったアニーは、ヴェイグの看病を自ら申し出た。彼女が医者志望ということもあり、仲間たちはそれを快く承諾した。宿屋の一室で、アニーはヴェイグの意識が戻るのを祈るように待った。ときどき、仲間たちがヴェイグやアニーの様子を見に来たが、病人の前ということもあり、皆長居はしなかった。静かで永いときを、アニーはヴェイグの傍で過ごした。
そして、ヴェイグは意識を取り戻したのは、仲間たちも寝静まった深夜のことだった。「アニー」と嗄れた声でヴェイグが自分の名を呼んだとき、アニーは嬉しさの余りベッドに駆け込みそうになった。
「気分はどうですか?」
ヴェイグの顔を覗き込む。虚ろな瞳と視線が重なったとき、思わずどきっとした。自分は、キュリア女史のように冷静な医師にはなれそうもないと心の片隅で思う。
「少しぼーっとする」
目を合わせたまま、ヴェイグは言った。その表情はまるで、少年のようであった。アニーは、ヴェイグの額に手をあててみた。
「・・・アニーの手は冷たいな」
「ヴェイグさんの身体が熱いんですよ」
「そうか。でも、気持ちがいい」
そう言ってヴェイグは、心地良さそうに目を閉じる。
「お水飲みますか?」
「ああ」
アニーは、ヴェイグの額からそっと手を離すと、水差しの置いてあるサイドテーブルに向かった。水を注ぐ手にはまだヴェイグの温もりが残っていた。
ヴェイグの上体を少し起こしてやり、コップを手渡す。ヴェイグはそれを受け取ると、ゆっくりと静かに口に含んだ。水を半分ほど飲むと、コップを両手に持ち直した。そして、それを一心に見つめる。
「どうかしたんですか?」
不思議に思ったアニーは、ヴェイグに尋ねた。
「・・・小さいとき、熱で倒れたことを思い出した」
少しの間のあと、ヴェイグは正面を向いたまま、静かに答えた。その声には、先ほどのような嗄れた感じはなかった。
「おばさんやおじさん、まだ小さかったクレアも一緒になって看病してくれて――嬉しかった。家族を知らない俺が、初めて彼らの家族になれたような気がしたんだ」
そして、ゆっくりとアニーに顔を向けた。瞳が合って、またどきりとする。
「アニーもありがとう」
そう言ったヴェイグの表情はとても優しいものだった。アニーは顔を真っ赤にさせて、身を乗り出すように反論した。
「わ、私だけじゃありません。みんなで看病したんです。マオやティトレイさんやヒルダさん・・・それにあの人も、みんなヴェイグさんのこと、心配してました」
「ああ、分かってる」
小さく頷いてヴェイグは、先ほどのようにまた目を閉じた。そして、満足そうに言葉を続ける。
「でも、あのときみたいに嬉しかったんだ。目が覚めたとき、一人じゃないと思ったら、嬉しくなった」
体温の高まりを必死に抑えながら、アニーはヴェイグの顔をずっと見つめた。普段口数の少ない青年の胸の内を聞けたような気がして、嬉しくなった。同時に彼の孤独感を、自分が少しでも癒せたら、と切に願った。
「ありがとう」
ヴェイグの素直な言葉に、アニーは自分がどのように答えるべきか分かっていた。
「どういたしまして」
「今度はヴェイグさんの番ですね」
「?」
「ヴェイグさんの体調がよくなったら、みんな嬉しいです。もちろん私も」
「そうか。善処しよう」
「ええ」
「アニーはいい先生になるな」
「ふふっ、最高の褒め言葉です」
ヴェイアニ2本目です。また熱ネタですみません(汗)
そして、昔話をでっち上げてすみません(笑) まあ、少しくらいなら良しということで☆
最後の会話はおまけです。「どういたしまして」で終わらせても良かったんですが、思いついちゃったんで載せときました。
2005.1.21.up
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