* 冷たい手 *



「温かい」
 そう言って、彼女は俺の手を両手に包んで、自身の頬にあてた。
 瞳を閉じて、血色のよい頬を摺り寄せる。

「・・・そんなはずは、ない」
 俺の言葉に、彼女は瞳を開き、一瞬当惑の表情を見せる。頬に寄せられた手も僅かに離れた。
「俺の手は冷たいさ」
 そう告げて、彼女の両手から自らの手を開放させた。行き場を失ったそれは、重力に従い下方に垂れた。



 そう、俺の手は冷たい。
 氷を生み出すだけの手。モンスターを殺めるだけの手。
 そんなものが、温かいはずがない。



「こんな手になんの価値がある?」
 自問するように呟く。彼女を見ることは、できなかった。
 ただ目の前に右手を翳して、握り締めた。


 大切なモノをも凍らせてしまう手に。真っ赤な血で染められた手に。
 価値など、あるはずがない。



 けれど彼女は、そんな手をまた自身の手で包んだ。



「そんなこと、言わないでください」
 首を振って、俺の方を一心に見つめる。



「価値がないなんて言わないでください。血で染まってるだなんて思わないでください」
 言葉と共に、彼女の瞳に込められた強さと優しさに一瞬恐怖した。



 この手に君を包んだら、君を凍らせてしまうかもしれない。
 この手に君を包んだら、君が血で汚れてしまうかもしれない。



 そんな不安ばかりが、自分を襲い、苦しめる。



 しかし、その不安さえも、目の前の少女は振り払ってくれた。



「私、ヴェイグさんの手、好きです」
 そう言って、また自身の頬に俺の手を摺り寄せた。
 頬をやや赤らめ、目を細くする。



 俺の手は、冷たい。
 けれど、君の笑顔に繋がると知ったとき、初めて好きになれた。




 初めてのヴェイグ視点。
 人を傷つけることも、守ることも怖い・・・みたいな彼を表現できていればいいのですが(汗)


 2005.3.27.up

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