* 冷たい手
*
「温かい」 そう言って、彼女は俺の手を両手に包んで、自身の頬にあてた。 瞳を閉じて、血色のよい頬を摺り寄せる。
「・・・そんなはずは、ない」 俺の言葉に、彼女は瞳を開き、一瞬当惑の表情を見せる。頬に寄せられた手も僅かに離れた。 「俺の手は冷たいさ」 そう告げて、彼女の両手から自らの手を開放させた。行き場を失ったそれは、重力に従い下方に垂れた。
そう、俺の手は冷たい。 氷を生み出すだけの手。モンスターを殺めるだけの手。 そんなものが、温かいはずがない。
「こんな手になんの価値がある?」 自問するように呟く。彼女を見ることは、できなかった。 ただ目の前に右手を翳して、握り締めた。
大切なモノをも凍らせてしまう手に。真っ赤な血で染められた手に。 価値など、あるはずがない。
けれど彼女は、そんな手をまた自身の手で包んだ。
「そんなこと、言わないでください」 首を振って、俺の方を一心に見つめる。
「価値がないなんて言わないでください。血で染まってるだなんて思わないでください」 言葉と共に、彼女の瞳に込められた強さと優しさに一瞬恐怖した。
この手に君を包んだら、君を凍らせてしまうかもしれない。 この手に君を包んだら、君が血で汚れてしまうかもしれない。
そんな不安ばかりが、自分を襲い、苦しめる。
しかし、その不安さえも、目の前の少女は振り払ってくれた。
「私、ヴェイグさんの手、好きです」 そう言って、また自身の頬に俺の手を摺り寄せた。 頬をやや赤らめ、目を細くする。
俺の手は、冷たい。 けれど、君の笑顔に繋がると知ったとき、初めて好きになれた。
初めてのヴェイグ視点。 人を傷つけることも、守ることも怖い・・・みたいな彼を表現できていればいいのですが(汗)
2005.3.27.up
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