* 微熱 *
「おいおい、大丈夫か、アニー。顔赤いぜ?」
ティトレイに言われて、アニーは自分の頬に触れてみた。確かに少し熱い。すると、マオがちょこちょこと目の前に来て、アニーの顔を覗き込んだ。
「ホントだ〜。あんまり無理しちゃダメだヨ?」
「・・・うん」
アニーは力なく頷いた。
カレーズで倒れたのは、つい最近のことであった。それ以来、仲間たちはアニーの体調を常に気遣ってくれる。しかし、その優しさは、反対にアニーの小さな負担となっていた。
「ごめんなさい」
誰にも聞こえないような声でアニーは言った。
自分が足手まといになるのは嫌だった。ヴェイグやティトレイたちとは違い、自分には明確な旅の目的がなかった。目の前で歩くガジュマに対する懐疑心と、“真実”を求める意志だけが、今の自分を動かしていた。
アニーの歩調はだんだんと遅くなっていき、前を歩く仲間たちとの距離も次第にひらいていった。
(ダメ、置イテイカナイデ・・・)
言葉が声にならなかった。視界もぼやける。
足の力が抜け、前に倒れそうになったとき、誰かの片腕がアニーの身体を支えた。
「アニー、大丈夫か?」
声の主はヴェイグであった。今まで近くにいたのだろうか。それに全く気がつかないほどアニーの意識は朦朧としていた。
「ご、ごめんなさい」
本能的にアニーはヴェイグから身体を離そうとした。しかし、力でヴェイグに敵うはずもなく、結局は2人で体を寄せ合うかたちとなってしまった。
「大丈夫なのか?」
ヴェイグは、先程と同じ質問をした。距離が近すぎて、目を合わせることが出来ない。
「はい、大丈夫です。すみません」
アニーは俯きながら口早に答えた。体温がだんだんと上昇しているような気がする。
「辛かったら、いつでも言ってくれ。倒れる前に俺が背負う」
「いえ、そんなっ! いいです! 私、重いですし」
「? 別に重くない」
それは今の状況に対してのヴェイグの素直な感想であった。アニーは慌てて否定する。
「ち、違うんです! そうじゃなくて」
「何が違うんだ?」
「とにかく、ヴェイグさんたちに迷惑かけたくないんです!」
「迷惑?」
「私ばかり足を引っ張っていて・・・もう、これ以上」
そう言い掛けたとき、肩にあるヴェイグの手の力が一層強くなった。突然のことにアニーも思わず顔を上げる。
「俺は迷惑だなんて思ったことはない。マオたちだって一緒だ」
「でも・・・」
アニーの言葉を遮り、ヴェイグは続けた。
「大切な仲間だから助けるんだ。それに理由はいらないだろう?」
その言葉に、アニーは自分の胸が熱くなるのを感じた。
「もっと俺たちを頼ってくれ」
「・・・ありがとう」
アニーは素直な気持ちを告げた。涙が溢れそうになったが必死で抑えた。
「あ、あの・・・」
「ん?」
「もう平気ですから、そろそろ離してくれませんか?」
アニーに言われて、ヴェイグもやっと状況を理解する。未だに彼は、アニーの肩を抱いた状態なのだ。
「ああ、すまない。本当に大丈夫なのか?」
「はい。でもちょっと肩が痛いです」
ようやく解放されたアニーは、いじわるっぽくヴェイグに言った。
「すまない、さっきはつい・・・」
「ふふっ」
ばつが悪そうに目をそらすヴェイグを見て、アニーは少し可笑しくなった。さっきまでの体調不良が嘘のように、心も体も晴れ晴れしている。
少しの静寂の後、ヴェイグが独り言のように呟いた。
「――前も言ったが」
「?」
「アニーは、笑顔の方が似合ってるな」
「・・・え」
ヴェイグの言葉に、一瞬頭が真っ白になったアニーは思わず俯いてしまった。
「ヴェイグー! マオとユージーンが呼んでるぞー」
そのとき、先を歩いていたティトレイが二人のもとに近づいてきた。
「分かった。アニー、一人で歩けるか?」
「・・・はい、大丈夫です」
マオたちに呼ばれ、ヴェイグが足早に去ったあとも、アニーは俯いたままだった。
「アニーも行こうぜ」
そう言って、ティトレイはアニーの顔を覗き込んだ。
「おいおい、本当に大丈夫か、アニー! 顔真っ赤だぜ!?」
「だ、大丈夫ですっ!!」
耳まで赤くしたアニーはそう答えるだけで精一杯だった。
ヴェイグ×アニー(なのか?)小説、とうとう書いてしまいました。
アニー大好きなんですが、自分で書くと可愛さの半分も出せませんね(> <)
もっとラブラブな2人を書きたいです。もう頭ん中病んでいるので(笑)
実はティトレイに同じ台詞(意味合いは微妙に違う)を言わせたかったがために、このSSは生まれました。
もう少し短くまとめるつもりだったのに(汗) ま、いっか。
最後にこんなSSを読んでくださってありがとうございました!
2005.1.16.up
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