*戦いの序曲*


「もうすぐ冬休みやねぇ」
「俺らには、そんなモンないのと同じだろ」

 高校三年生である自分たちにとって、冬はある種の戦いだ。
 東金がそれを指摘するも、幼なじみは穏やかな笑みを崩さずに続ける。

「千秋は変なところで真面目なんやね。せやけど、イベントごともちゃんと楽しまんと」
「イベントごとって…クリスマスとかのことを言ってるのか?」
「ん、そやよ。あ、初詣も行きたいなぁ」
「初詣くらい毎年行ってるじゃねぇか」
「ん〜来年はこっちのやなくてね」
「……は?」
「向こうのに行きたいな思うて」
「……それってあいつ、とか?」

 幼なじみの口調にどこか含みを感じ、東金はずばり核心を問う。
 しかし、その鋭い質問に対しても、土岐は相変わらず余裕な表情を見せるのみで。

「そんなん分かっとるやろ? 夏休み中は無理やったけど、今年中には落とさな思って」
「お前も諦めが悪いな」
「それ、千秋が言う?」
「はぁ!?」
「あ、でも『も』ってことは自覚はあるんやね」
「な…っ!」

 幼なじみからの思わぬ反撃に言葉を詰まらせる東金を見て、土岐はふふっと柔らかく笑った。
 その反応に、東金は小さく舌打ちをするも。

「……分かった」
「ん、何が?」

 首を傾げる土岐に、胸の奥で生まれた一つの決心を口にする。

「クリスマスは俺があいつと過ごす。勿論、初詣もお前抜きの二人で行く」
「……ふ〜ん、言いきったねぇ。んじゃ、千秋がちゃんと実行できるか、間近で見てなあかんね」
「邪魔する気満々かよ」
「そりゃモチロン」

 眼鏡の奥の瞳を細める幼なじみに、東金は挑戦的な笑みを返す。

「期末が終わり次第出発だな」
「向こうには連絡もせんで行くの?」
「当たり前だろ。あいつの驚く顔も見たいじゃねぇか」
「ふふ、それもそうやね」

 互いの視線が交わり、二人は不敵に微笑んだ。

 高校三年生にとって、冬はある種の戦いだ。
 ──そして、こちらの勝負も、まだ始まったばかり。





 雑誌で、「夏休み中に落とす」とかかなでに言っている土岐を見たので。
 土岐の口調が難しい…。


 2010.12.24.up