*ミルキーウェイに願いをこめて* 7月7日、その日の放課後も至誠館高校吹奏楽部の部員たちは間近に迫る地方大会に向けて各自練習に励んでいた。 部長である火積が言葉少なに叱咤激励し、伊織や新が足りない部分にはすかさずフォローを入れる。八木沢や狩野が抜けた穴をそれぞれが彼ららしく埋めることで、部員たちの士気を高め、団結力を強めていた。 そんな中、一時練習室から抜けていた新が大きな笹を担いで戻ってきた。「火積部長、見て見てー」と暢気な声が教室内に響く。 呼ばれた火積がトランペットから口を離し、眉を顰めて睨むも、新は気にする素振りも見せず、笑顔で笹を得た経緯を説明し始めた。 曰く、仲の良い男性教師から貰ったらしい。その教師は元々吹奏楽部に対して好意的であったが去年はほとんど関わることがなかった。しかし、新の人当たりの良い性格も手伝ってか、最近では彼を通して様々な差し入れをしてくれる。 「ねぇねぇ、みんなで願い事を書きましょうよ!」 笹と一緒に持ってきた短冊を掲げ、新がそう提案すると、部員全員の期待を含んだ視線が火積へと集中した。 「……ったく、仕方ねぇな」 一喝する気も起きず、ため息混じりに呟くと、新は歓喜の声を上げ、伊織は柔らかく微笑んだ。 部員たちが新の周囲に集まり、願い事を何にするかと盛り上がるのを遠目に眺めていると、傍にいた伊織が遠慮がちに囁いた。 「火積くんも参加しよう?」 「いや、俺は……」 「何言ってるんですか、部長は勿論強制参加ですよ〜」 首を振ろうとした火積の手に、いつの間にかこちらに来ていた新が無理矢理ペンと短冊を持たせる。 「なっ、俺は別に――」 「さぁさぁ、どんな願い事を書いちゃいます?」 「いや、だから……」 「楽しみだな〜火積部長の願い事!」 「………ちっ」 新の強引さと、再び向けられた周囲からの期待をこめた視線に負け、火積は舌打ちをしつつも短冊にペンを走らせた。 『至誠館高校 全国優勝』 願掛けというよりは、決意表明に近い言葉を力強い文字で書く。 「火積部長は相変わらず渋いなぁ! でも、真面目すぎー」 さすがだね、と声を漏らした伊織とは対照的に、新は少しだけ不満げである。 「……なんか文句あるのか?」 「だってそれって部全体の願い事じゃないですか。オレは火積部長個人の願い事を書いて欲しかったんです〜」 「テメェはまた訳分かんねぇことを…。これは俺個人の願いでもあるんだから問題ないだろうが」 火積が眉間に皺を寄せ、新を鋭く睨む。 二人の間に流れる空気が若干不穏なものに変わったことに気が付いた部員たちが静かに息を呑むも、張本人でもある新は全く物怖じした様子を見せない。と言うのも、新には火積を不機嫌にさせている自覚はなく、純粋に彼を思って訊ねていたからで。 「高校生が買える範囲で欲しいものをささ〜っと書いてくださいよ!」 「はぁ? ……意味分かんねぇし、別に今は特別欲しいもんもねぇ」 「ええ〜!?」 「……水嶋、テメェは何がしたいんだ?」 「いやぁ、オレは別に〜」 「素直に吐け」 「む〜明日、部長の誕生日じゃないですか。だから欲しいものをリサーチしてたんです〜」 頬を膨らませながら告げる新に、火積はやはり意味が分からんと盛大なため息をついた。 確かに明日は火積の誕生日だが、だからと言って欲しいものを短冊に書くほど自分はもう子どもではないし、それを書いて暗に誰かに要求する気もない。 火積がそう告げても新は納得することはなかった。火積の言葉を左から右へと聞き流し、腕を組みずっと何かを考えていたが、 「よっし、閃いた!」 突然声を上げると、短冊にとある願い事を書き始めた。 「あ、もし叶ったら教えてくださいね?」 「あぁ? ……って、み、水嶋、テメェ!」 ペンを離した新が短冊を火積の前に掲げると、そこに書かれた文字を見た火積は顔を真っ赤にさせて握り拳を新の頭上に思い切り落とした。 「Ai! ほら、やっぱり乱暴だ〜!」 「俺が言いたいのはそこじゃねぇ!!」 もう一度頭を殴られた新の手から短冊がひらりと床に落ちる。火積たちの言い合いを傍観していた他の部員の視線は自然とそちらに向けられ、 『ランボーな彦星さまがキュートな織姫さまとデートできますように!』 その願い事を見た伊織以外の人間が首を捻ったのは言うまでもない。 Happy Birthday HOZUMI!! また、かなでちゃん不在ですみません。 もし火積が欲しいものを挙げていたら、新は自分が買うのではなく、かなでに教えるつもりでした。結構ちゃっかり者です(笑) 2010.7.5.up |