※二人が一緒に暮らしてます。
*想いを口に* 冥加が帰宅すると、かなでは相変わらずベッドで横になっていた。 すやすやと寝息を立てているのを確認し、熱はだいぶ引いたようだと心のうちで安堵する。 僅かに乱れた髪を優しく撫でると、手の感触に気づいたかなでは小さく声を漏らした後、静かに目蓋を上げた。 「れい…じ、さん」 触れなくても分かるややかさついた唇から自分の名が紡がれる。覚醒したてということもあり、開いた目は虚ろで未だ焦点が合っていないが、何かを求めるように冥加の方に腕が伸びている。 「ぎゅって、してください」 体調を崩すと心まで弱ると言うが、目の前の恋人もそれに違わぬようで。 元々低い精神年齢が更に下がったようだと内心で毒づくも、伸ばされた腕を振り払う理由を持たない冥加は大きく息を吐いた。 ベッドに腰を下ろし、かなでの上体のみを起こすとその小さな身体を包むように両腕を回す。 「……大好き」 甘えるように耳元で囁かれた声は、慈しみの色も多分に込められていて。 「玲士さん、は?」 「……答えなど聞かずとも分かっているだろう」 呆れたとばかりに漏らした言葉とは裏腹に、冥加のかなでの背を撫でる手は優しい。 けれど、一日中一人っきりでいたかなでは、そんな答えでは満足がいなかない様子で猶も冥加に訊ねてくる。 「……嫌い、ですか?」 「それならば一緒に暮らしたりなどせん」 「でも、ちゃんと口にして…欲しいです」 「我が侭だな」 「…むぅ」 抱きしめているためかなでの表情は窺えないが、おそらく頬を膨らませているのだろう。 こういうときのかなでは、子どものように強情だ。自分が折れない限り、いつまでもこの押し問答が続くであろうことは冥加は今までの経験から心得ている。 たまには遊んでやってもいいのだが、今日のかなでは体調を崩している。彼女の身体を早く休ませることが今の最優先事項であろう。 「分かった。それならば望み通り口にしてやる」 「本当…ですか?」 「ああ、だから俺の目を見ろ」 そうかなでに告げ、冥加が腕を緩めると、かなでは寄せていた身体を少しだけ離した。 目を見ろと言われたためか、その大きな瞳を開き、座高も頭一つ分以上高い冥加のことをじっと見上げている。その頬に僅かに赤みが差しているのは、熱のせいか、待っている言葉のせいか。 素直な彼女は、冥加が張った罠に気づかない。否、正確には自分から出してしまった抜け道に。 期待を込めた目で冥加を見上げていると、くつくつと喉を鳴らす音が青年の口から漏れた。 かなでが首を僅かに捻ると、頬に大きな手を添えられた。その手がゆっくりと這うように動き、やがてかなでの後頭部で止まる。 直後、ぐいっと力を込めて引き寄せられ、小さく漏れた声は恋人の唇によって塞がれた。冥加の舌が渇いたかなでの唇や口内を優しく舐め上げる。 口付けが深くなる前に冥加が唇を離すと、顔全体を真っ赤にさせたかなでが何か言いたそうな目でこちらをじっと見詰めていた。 「“口にして欲しい”、それがお前の望みだろう?」 「れ、玲士さんのいじわるっ」 口端を吊り上げた冥加の言葉に、何も言い返せないかなでは拗ねるように冥加の胸に顔を埋めた。 声を漏らして笑うと、胸の中にいる彼女はそれを打ち消したいとばかりにぽかぽかと両手を振って胸を叩いてくるのだが、その力はもちろん加減されているため痛くも痒くもない。 視線を下にし、耳まで赤くさせたかなでに穏やかな眼差しを向ける。 本当はこのまま言葉に出さないつもりだった。けれど、一日中寂しい思いをさせてしまったことを自分の一言で償えるのならば易いものだという考えも脳裏を過ぎって。 このような思考に至るなど自分も相当ほだされたものだと嘆息したくなるが、そんな感情を抱かせたのは紛れもなく胸の中にいる彼女で。 密かに意を決した冥加は包み込むように再び長い腕をかなでの背に回すと、彼女の耳元に顔を寄せ求められた言葉をそっと囁いた。 どうしたコレ! 二人が別人すぎてすみません…!!(土下座) ベタですが、次の日冥加さんに風邪が移っていればいいと思います(笑) 2010.6.11.up |