*秘密の約束*


 ファイナルを目前に控えたある夜、菩提樹寮の裏庭で響也とかなでは二人きりで花火をしていた。
 最後に線香花火が一本残ったため響也はそれをかなでに譲ろうとしたが、かなでの提案でその一本を二人で持って“一緒にやる”ことになった。
 響也の手とかなでのそれが重なり、一本の線香花火を持つ。もちろんお互いの距離だって近い。
 最後の線香花火が消えるまでかなでは嬉しそうにしていたが、正直響也は気が気ではなかった。

「あ〜…くそ。こんな姿、ぜってぇ他のやつに見せられねぇ」

 ため息まじりにぼそりと呟く響也。しかし、二人の姿はしっかり“彼ら”に見られていた。

「後始末はオレがしとくから、お前はさっさと中に入れ」
「え、私も手伝うよ?」
「別に片付けまで一緒にやることはねぇだろ」
 
 さっきのことが余程印象的だったのか、変に意識してそんなことを言ってしまう。
 急に強くなった風のことも気になって、かなでを寮の中に早く入れようとしたのだが、それもある声によって阻まれた。

「解散するのは早いぜ、お前ら」

 かなでと響也が同時に振り返ると、縁側に立つ東金の姿が目に入った。正確には彼だけではない、土岐に八木沢に律――東金の後ろには見知った顔ばかりが並んでいて。

「うおっ、な、なんだよ、みんなして!?」

 驚きの声を上げる響也に、東金の後ろからひょいっと顔を出した土岐が薄い笑みを浮かべて言葉を投げる。

「俺らも仲間に入れてくれん?」
「は…?」
「たまには庶民の遊びに付き合ってやるって言ってんだよ」
「な…っ」
「如月クンだけずるいで。俺も小日向ちゃんと花火したいわ」
「確かにみんなでやったら楽しいでしょうね」
「ああ、俺も久しぶりだ」

 土岐ほど下心は見せないものの、八木沢と律も彼の言葉に頷いてみせる。
 
「それにしても、如月弟。お前、抜け駆けとはいい度胸だな?」
「ぬ、抜け駆けじゃねぇよ! それに生憎だが、花火はもうないぜ」
「それなら問題ない」
「今、火積たちが買いに行ってくれているところです」

 どうも人数が足りないと思ったら、そういうことかと響也は内心で舌打ちした。八木沢の話によると東金の命令で寮にいる一、二年生に買出しに行かせたらしい。

「大地と水嶋にも連絡をしておいた」

 余計なことをすんな!と兄に対して叫びそうになるも、嬉しそうに目を輝かせているかなでの横顔を見たら、そんな言葉も喉の奥に引っ込んでしまう。

「また花火ができるね」
「…そう、だな」

 にこにこと笑顔を向けられ、釈然としない気持ちのまま響也が頷いたそのとき、

「お待たせ〜コンビニにあった分全部買ってきましたよー!」

 明るい声と共に、コンビニの袋を両手に抱えた新がドタバタと走りながらでやってきた。その後ろには火積や芹沢たちが続いていて、彼らも両手にビニール袋を持っている。

「……どんだけやるつもりなんだよ」

 買ってきた花火セットの量に呆れつつ、けれど隣を見るとやはり嬉しそうに表情を明るくさせている幼なじみがいて。
 おそらく、これから暫くの間はかなでの傍にライバルたちが貼り付いて離れないだろう。それは確かな予感である。
 納得はいかないけれど、人数的にも分が悪すぎるため、どう足掻いても敵いそうにない。
 だから。
 
「かなで」
「うん?」
「一本だけ線香花火を取っておくからさ、また最後“一緒にやろう”ぜ?」

 耳元に顔を寄せ、彼女にだけ聞こえる声で囁く。
 響也の言葉にかなではこくんと頷くと、「楽しみだね」と声を潜ませながら、まるで秘密の約束を交わした子どものように微笑んだ。





 イベント「一緒に花火」の続き(捏造)です〜。
 ゲーム内では誰にも邪魔されずにすんで良かったね、響也!(笑)


 2010.5.22.up