*彼と彼女のgive and take* 夕方、自室でのんびりしているかなでのもとに親友であるニアがやって来た。 「小日向、君宛の贈り物が届いているぞ」 艶のある笑みを浮かべながら彼女が差し出したのは、瑞々しい果実が色とりどりに入ったフルーツバスケットだった。 ニアからバスケットを受け取ったかなでは、見事な果実の数々に思わず感嘆の声を漏らす。そんな彼女を見て、ニアは片眉を吊り上げた。 「また、あいつからか?」 「たぶん、そうだと思う」 頷くかなでの表情はにこやかで、とても幸せそうだった。 「ふぅん、冥加という男も存外律儀なんだな」 確か数日前は花籠を贈ってきたはずだ。その前は、高級そうな万年筆だったか。 「うん、お返しはいらないって言ってるんだけど、私に貸しを作るのは嫌だとか言って」 「へそ曲がりなところは相変わらずと言うことか」 ニアの歯に衣着せぬ物言いに、かなではくすくすと笑ってみせる。 「それにしても、全国大会は終わったというのに君はまだあいつに差し入れをしているのか?」 「うん。だって冥加さんが忙しそうなのは今でも変わらないし」 「ふふ、君はそういう奴だったな」 臆面もなく告げられ、律儀なところはお互い様のようだとニアは心のうちで呟いた。 大会期間中とほとんど変わらないように見える冥加とかなでの関係だが、親友の表情を窺い見る限り、どうやらそういう訳でもないらしく。 相手が相手なだけにこちらからは余りちょっかいを出さずに静観を決め込んでいるニアではあるが、いつか絶好のネタを掴んでやると密かに企んでいたりもする。 ただ、暫しの間は目の前の少女の幸福そうな顔を眺めているのも悪くはないかもしれない。 そんなことを考えていると、ニアの口元も自然に緩んだ。 「なんだかニアも嬉しそう」 「君といると退屈しないからな。それに君はその果実を使って、また美味しい菓子を作ってくれるのだろう?」 「うん、もちろん!」 元気良く頷くかなでを見て、ニアは「楽しみにしているよ」と艶やかな声で告げたのだった。 * * * その翌日、天音学園の執務室で冥加が雑務をこなしていると、微笑を浮かべた御影が入ってきた。 「これ、小日向さんからよ」 彼女の手元をちらりと横目で見ると、その手には小さな紙袋があって。 「差し入れ、かしら?」 「……そのようだな」 「中身は…もしかしてお弁当?」 「さあな」 無関心を装って答えるも、大体の察しはついている。 おそらく弁当と甘さ控えめで作られた洋菓子、相変わらずの野菜ジュース。そして一通の手紙。 お互いの学校が始まってからは、かなでは冥加に弁当を届けるようになっていた。直接手渡されることがほとんどだが、このような形で学園に届けられることもしばしばあって。そのときは必ず手紙が添えられており、寝坊したなどの言い訳と冥加の身体を気にかける言葉が書かれていた。 今日もそれに近いことが書かれているはずだと手元の資料から目を離さずに冥加が考えていると、すぐ横でくすくすと笑う御影の声がした。 「ふふ、おめでとう。ずっとあなたの片思いだと思っていたけれど、それもようやく報われたということかしら?」 「……ふん、くだらん」 鋭い視線を向け、「用が済んだのなら、さっさと出て行け」と低い声で告げると、御影はあからさまに肩を竦めてから、踵を返した。 そのまま立ち去るのかと思えば、扉のところで立ち止まり、顔だけを冥加に向ける。 「そうだ、コンサートのチケットが二枚手に入ったのだけど、玲士くん聴きに行く?」 「必要ない」 「あら、じゃあ天宮くんか七海くんに渡そうかしら」 「……一枚ずつやればいいだろう」 「それでは面白くないもの」 「…………」 穏やかな表情を浮かべつつ、そんなことを告げる御影を見て、冥加は一瞬背筋が凍るような錯覚を覚えた。 天宮と七海、彼らのどちらの手に渡っても、おそらく冥加にとっては望ましくない展開になるだろう。それだけはどうしても避けなければならない。 「もし必要ならば早めに教えてね。じゃあ」 冥加の逡巡を知ってか知らずか、御影は彼の答えを待たずにさっさと退室してしまう。その後、残された冥加の低い唸り声だけが執務室に静かに響くことになるのだった。 結局、事態を察した枝織がそのチケットを譲り受けることになるのだが、それはまた別の話。 二人の差し入れ合戦は周囲にバレバレだったらいいと思います(笑) 大会後、冥加と御影の関係が良好なのかは謎ですが、細かい点はスルーでお願いします…。 2010.5.20.up |