※ネタバレはありませんが、配信イベントに関連するお話です。



*したたかに宣戦布告*


「おい、そろそろ覚悟を決めたか?」
「え?」
「誤魔化すのは無しやで、小日向ちゃん」

 小日向さんたちが神戸を訪れた日の夜、夜景を眺める彼女を挟み、部長たちはまたも彼女を口説い…もとい神南への転校を勧めていた。
 それは数日前、俺たちが横浜を去るまで毎日のように見ていた光景で、彼らのやりとりに俺はどこか懐かしさを覚えた。

「お前さえ頷けば明日からでも転入を許可してやるぜ。もちろん管弦楽部への入部もな」
「この街で俺らと毎日楽しく過ごそ?」
「で、でも、私は…」

 星奏学院のメンバーが遠くにいるのを良いことに、部長たちは戸惑う彼女に強引に迫る。
 部長たちにも困ったものだ、と内心で嘆息していたら、小日向さんの大きな瞳と視線が合った。明らかに俺に助けを請うている。

「おい、芹沢。お前からも何か言え」

 彼女が向けた視線によって俺の存在を思い出したらしい部長が口角を上げてこちらを見据えた。ちらりと横を見れば副部長も眼鏡の奥の目を細め、薄い笑みを浮かべていて。
 この数日間、彼女と会えなかっただけで寂しさを感じていたのは確かだった。
 部長が突然の思いつきで彼女たちを神戸へ招待すると言ったときには、半ば呆れながらも、その半分は喜んでいる自分がいた。
 今日、数日振りに彼女の笑顔を見ることができて小さく胸が高鳴ったのも事実だ。表面には出さないでいるものの、今だって同様で。
 けれど、俺の答えは決まっていた。

「俺は小日向さんの意志を尊重します」

 きっぱりとそう告げると、部長たちは意外そうに目を見開いた。

「ふぅん、お前が小日向の肩を持つとはな」
「芹沢クンなら、俺たちに味方すると思ったんやけど」

 もしかしたら、部長たちは俺の気持ちに薄々気づいているのかもしれない。
 だから、俺の答えに不満気な表情を見せるのだろう。しかし、だからと言って発言を変えるつもりはない。
 なぜなら。

「彼女がどちらを選んでも俺にとっては悪い話ではないので」
「は?」
「それはどういう意味なん?」

 部長たちは眉を顰めて俺に疑問の言葉を投げた。
 話題の中心にいるはずの小日向さんも小首を僅かに傾げて俺を見ている。そんな彼女にのみ視線を向け、俺は言葉を続けた。

「小日向さんが神南に来てくれたら、一年以上を彼女と共に過ごせます。けれどそれが叶わなくても、来年も全国大会で戦うことができます。どちらにしても、俺は彼女と繋がっていられます」
「……芹沢」
「あんたも言うようなったなぁ」
「そうですね、部長たちの影響かもしれません」

 引き攣る表情の部長たちにそう告げて、俺は頬を赤らめる彼女だけに微笑みを向けた。

「小日向さん、あなたはどちらを選んでくれますか?」





 二人きりのときに言わせても良かったのですが、先輩たちに向けてライバル宣言もさせたかったので、こんな形に(笑)
 かなでが神戸を訪れたときは、東金の別荘に泊まったんでしょうか?
 そこら辺の事情が分からなかったので、夜景を見ながらのお話になりました(色々無理矢理)


 2010.5.8.up