*季節はずれの誕生会*


 真夏の空の下、小日向と昼食を共にする。
 最初は何気ない話に花を咲かせていたが、それはいつの間にか誕生日の話題になって。
 自分の誕生日は4月15日だと告げると、小日向は眉尻を下げて呟いた。

「え、ニアの誕生日ってもう過ぎちゃったんだ」
「ああ、とっくの昔にな」
「む〜残念」
「なぜ君がそんな顔をする?」
「だってお祝いしたかったから」

 唇を尖らせる親友の言葉に、私は胸に温かいものを感じたが、それをおくびにも出さず何とでもないように言う。

「来年の誕生日に盛大に祝ってくれればいいさ」
「……うん」

 その力のない返事に、私の口からは落胆とは異なった色のため息が漏れた。

「全く君はおかしな奴だな。……じゃあ、こうしよう」

 言いながら、自身の人差し指を彼女の顔の前に突き出す。

「明日一日君と共に過ごさせてくれ。君の料理を食べ、君の演奏を聴いていたい」
「……そ、そんなことでいいの?」
「ああ、むしろ十分すぎるくらいだ。なにせ君の時間をいただくのだからな」
「でも…」

 私の提案に小日向は不安そうに訊ねる。
 目の前の少女は、このプレゼントの意味の大きさと狡猾さに全く気が付いていないようで。
 そして、自分がどれだけの人間を魅了しているのかも知らないのだろう。

「一日君を独り占めできるんだぞ? 何人の苦渋の表情を拝めるか今から楽しみにしているよ」
「え、苦渋?」
「ふふ、気にするな。それで、君は明日何を作ってくれるんだ?」
「ニアが好きなものを作るよ。だから、なんでもリクエストしてね!」

 木漏れ日のような柔らかな笑顔を向けてくれる少女に、君が作ってくれるなら何でも美味しいだろうなと冗談めかして告げる。
 小日向のお陰で音楽が少し好きになれた。
 彼女が奏でる調べならば、もっと好きになれる。そんな確かな予感があって。
 たぶん自分も魅了されている人間の一人なのだろうと、可愛い親友に視線を送りながら私は心の隅で苦笑した。


 Happy Birthday NEAR!!



 短めですが誕生日記念に。
 メインキャラに4月生まれがいないな〜と思っていたら、彼女がそうでした(笑)



 2010.4.15.up