*garnet×red*


「お酒…ですか?」

 休日の午後、いつもように自宅を訪れた小日向は、俺のグラスに注がれたそれを見て、小首を傾げた。

「こう見えても俺は未成年だが?」
「そ、そういうつもりじゃなくて! その…ワインに見えたから」

 俺がひと睨みすると、小日向は慌てた様子を見せて。
 ワインとそれとでは大違いな気もするが、目の前の少女はヴァイオリンの腕以外を見ればただの高校生。社交場等とは全く無縁の者ならば、詳しくなくても別段問題はないのかもしれない。
 俺が不機嫌だと思ったのか、未だに眉尻を下げたままの小日向を見て俺はくつくつと喉を鳴らした。

「そんな顔をするな。酒ではない」
「え、じゃあ、ジュースですか?」
「…ああ」
「うーん、なんのだろう?」

 数秒前まで落ち込んでいたはずの少女は、今度は目を輝かせてそれをじっと見詰める。
 せっかく俺の元を訪れたというのに、小日向の興味はテーブルの上のそれにばかり向けられていて。
 ……面白いはずがない。

「飲みたいのか?」
「え?」
「紅茶を淹れるつもりだったが、気になるのならばそちらを出そう。どうなんだ?」
「は、はい。ぜひいただきたいです」

 こくんと頷く小日向を見て、俺は密かに口角を上げた。
 果実のように甘い言葉で、旺盛な好奇心を持つ少女を罠に掛ける。なんて背徳的で、なんて扇情的な。
 テーブルの上のグラスを手に持ち、俺は小日向の傍まで距離を縮める。

「口を開けていろ」
「へ?」

 間抜けな声を出す小日向の下顎を片手で掴み、もう片方の手に持ったグラスを煽った。
 独特の酸味が鼻腔と口内を同時にくすぐる。けれど、それを喉に流すことなく、口に含んだまま顔を小日向に近づけた。

「…んっ!」

 一瞬だけ小さな声が漏れたが、その音さえも俺の唇で塞いでみせる。
 予期せぬ出来事に小日向は首を振ったり、両手で俺の胸を叩くなど出来る限りの抵抗を見せるものの、そんな些細な力が男の俺に通じるはずもなく。
 掴んだ顎を僅かに持ち上げ、口に含んだ液体を重力に任せて余すことなく流し込めば、下にいる少女の微量の抵抗もその動きを止めた。
 長い静寂の後、俺がゆっくりと顔を離すと、目の前の少女は顔全体をグラスに残った液体と同じ色に染めていて。

「赤いな」
「だ、だって…」
「だが、分かっただろう? これが何か」

 血のように赤く。誘惑のように甘美なもの。
 冥界の王は、この果実で一人の乙女を我が物にしたという。
 
「これでお前は囚われた」

 そう告げて、俺は再び唇を重ねた。





 まず、また冥加さんがキャラ崩壊していてすみません…! そして恥ずかしい!!
 T箱のドラマCDで冥加さんがかなでをペルセフォネに譬えているそうなので、一度は書きたいと思っておりました。
 あ、説明は不要かもですが、飲んでたのは柘榴ジュースです。ワインと間違えます…かね?(汗)


 2010.3.25.up